※本稿は、安保雅博『歩幅を見れば、寿命がわかる 「死ぬまで歩ける体」のつくり方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
「転倒・骨折」が要介護の入り口になる
高齢者が要介護状態や寝たきりになってしまう原因というと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。認知症や脳卒中、加齢に伴う身体機能の衰えをイメージする方が多いのではないかと思います。しかし、大きな原因として見落とされがちなのは、実は「転倒・骨折」です。
高齢者にとっての転倒は、その後の人生に大きな影響を与えます。転倒でケガをしたことをきっかけに活動量が減り、さらに筋力が衰え、外出しなくなり、やがて要介護状態へ――。そんな負の連鎖の出発点になることが多いのです。
図表1のグラフは、65歳以降の高齢者を5歳ごとのグループに分け、各年齢グループの要介護認定率を表したものです。これを見ると、要介護認定率は75歳を境に急激に上昇することがわかります。
・75歳以上の人たち全体での認定率:31.5%
・85歳以上の人たち全体での認定率:57.8%
重要なのは、「75歳になった瞬間に急に衰えるわけではない」ということです。その前の65~75歳の10年間に、どれだけ体を動かす基盤をつくれたかが、75歳以降の老いとの戦いの勝敗を大きく分けると言えるでしょう。
だからといって、すでに75歳を迎えている方や、80代の方は手遅れというわけではありません。人間の筋肉や体は、正しい方法でアプローチすれば、いくつになっても必ず応えてくれます。自分の体の変化に「気づいた瞬間」が、老いを食い止めるスタートラインなのです。
転倒は「日常の何気ない場面」で起きる
75歳以降になると、急激に要介護の割合が増えてしまう大きな原因が、先ほど述べた「転倒」です。
厚生労働省のデータによると、「転倒・骨折」は要介護状態になる原因として認知症や脳血管疾患に次いで上位に挙げられています。特に75歳以降では、その割合がさらに高くなります。
若い人なら打撲で済むような転倒でも、高齢者の場合は手首や腕の骨折、さらに深刻なケースでは股関節の骨折につながります。
股関節の骨折は、その後の歩行能力や生活の質を大きく左右します。入院や手術をきっかけに体力が落ち、「また転ぶのが怖い」という不安から外出を避けるようになる人も少なくありません。すると活動量が減り、筋力が低下し、さらに転びやすくなる――。
この悪循環によって、要介護状態へ進んでしまうケースは決して珍しくないのです。しかも転倒の原因は、交通事故や高所からの転落のような大きな事故ばかりではありません。
・家の中でつまずいた
・ちょっとした段差でバランスを崩した
・何もないところでよろけた
そんな、日常の何気ない場面で起きているのです。このような転倒を防ぐためには、「転びにくい靴」を選ぶこともとても大切です。靴の選び方のポイントについては、追ってお話していきます。
雨の日は「マンホール」「鉄格子のふた」に注意
以前の記事(第3回)で、高齢者の転倒の多くは自宅内で発生しているというお話をしましたが、もちろん屋外にも転倒の危険因子はたくさんあります。
滑りやすい場所や段差など、いわば「危険スポット」は数多く存在しますが、すべてに注意を向けるのは現実的ではありません。そこでここでは、つい見落としがちな転倒につながりやすいポイントに絞ってお伝えします。
まず特に注意したいのが、雨の日の外出です。道路や建物の床が濡れて滑りやすくなるのは、誰もが想像できるでしょう。晴れている日にはあまり危険を感じない次のような場所も、雨の日には一気に危険度が増します。
【雨の日の要注意スポット】
・マンホールのふたの上
・グレーチング(側溝の上に設置されている鉄製の格子状のふた)
これらは金属製のため、濡れると非常によく滑ります。「横断歩道を渡るとき、マンホールに足を乗せてツルッと滑りそうになった」「杖をついて歩いていたら、杖先がマンホールの上で滑ってヒヤッとした」などのような経験がある方も多いのではないでしょうか。
入り口マット、床のビニール、エスカレーター…店内も危険
スーパーやコンビニなどの店内も、油断できません。
【店内の危険スポット】
・入り口付近のマットがめくれている
・野菜や花の葉っぱが床に落ちている
・ビニール包装の商品が滑りやすい状態で落ちている
特に雨の日は、靴底が濡れたまま店内に入るため、「ちょっとした物」でもつまずきやすく、滑りやすくなります。エレベーターやエスカレーター周辺のグレーチングが濡れているといったケースもあり、足元への注意が欠かせません。
車で買い物に行く場合も、ちょっとした瞬間に注意です。「買い物袋を持って急いで車に戻ろうとしたら、車止めに気づかず、つまずきそうになった」などという場面は、日常の中で意外と起こりがちです。駐車場の車止め、側溝、雨で見えにくくなった段差などでつまずくリスクがあるので、足元に気を配るようにしてください。
雨の日は、いつも通りに歩くこと自体がリスクになる日です。「一歩出す前に、足元を一瞬見る」、「金属のふたや濡れた場所は、できるだけ避ける」「『大丈夫だろう』と思わず、少し慎重に動く」など、ほんの一拍の意識が、転倒を防ぐ大きな助けになります。
靴選びの注意①かかとが固定されている
先ほどもお話したように、転倒を防ぐためには靴選びも大切です。高価な靴や、専門的な靴である必要はありません。次の2つのポイントを満たしていれば、スニーカー・ウォーキングシューズ・革靴のどれでも大丈夫です。
【ポイント①かかとが覆われ、しっかり固定されていること】
まず何より大切なのは、かかとがきちんと覆われていることです。サンダルやミュール、つっかけなどかかとがない靴は、どうしても脱げやすくなります。
すると無意識のうちに、「脱げないように足を引きずる」「歩幅が小さくなる」といった歩き方になり、歩行が不安定になります。
本来、歩くときは、かかと→足裏→つま先という順で地面に接地するのが理想です。ところが、加齢による足の力の低下に加え、かかとが固定されない靴を履くと、かかとから着地することが難しくなり、体のバランスを崩しやすくなります。
「近所にゴミ出しに行くだけだからとサンダルを履き、段差で足を取られてヒヤッとした」
「家の中でスリッパが脱げかけて、つまずきそうになった」
こうした経験がある方も多いでしょう。室内でスリッパをおすすめしにくいのも、「滑りやすい」だけでなく、かかとが固定されないことが理由のひとつです。
靴選びの注意②つま先に1cm~1.5cmの余裕
【ポイント②つま先に1cm〜1.5cmの余裕があること】
もうひとつ大切なのが、つま先の余裕です。歩くときに、足の指で地面をつかむように踏み出すと、体が安定しやすくなる、前に進む力が出やすくなる、といった効果があります。
ただしこの動きは、靴の中で足の指が曲がらなければできません。そのため、靴を履いてかかとをピタッと合わせた状態でつま先に「1〜1.5cm」ほど余裕があるサイズのものを選ぶとよいでしょう。
特に、「これからたくさん歩くようにしよう」と考えている方には、こうしたサイズの靴を選ぶことをおすすめします。
また、靴選びでは、つま先からかかとまでの縦のサイズだけでなく、足の横幅のフィット感も確認しておきましょう。横幅が合っていると、靴の中で足がぶれにくくなり、歩行の安定感がさらに高まります。
色やデザインは、ぜひご自分の好みで選んでください。「履くと気分が明るくなる」「外に出たくなる」。そんな靴は、歩く機会を自然と増やしてくれます。
筋トレ・ウォーキングは大事だが、足元から見直して
転倒予防というと、筋トレやウォーキングばかりに目が向きがちです。もちろん転ばないための体づくりは大切ですが、どれだけ筋力があっても、滑りやすい靴や脱げやすい靴を履いていては意味がありません。
特に高齢になると、筋力だけでなくバランス能力や反射能力も低下します。だからこそ、転ばないための環境づくりが重要になります。
その第一歩が、毎日履く靴を見直すことです。もし今、かかとのないサンダルやつっかけを普段使いしているなら要注意。ずっと自分の足で歩き続けるために、まずは足元から見直してみてはいかがでしょうか。
(参考文献)
・安保雅博、中山恭秀『寝たきり老後がイヤなら 毎日とにかく歩きなさい!』(すばる舎)
・安保雅博、中山恭秀『何歳からでも 丸まった背中が2ヵ月で伸びる!』(すばる舎)
・安保雅博、中山恭秀『家でも外でも転ばない体を2ヵ月でつくる!』(すばる舎)
・厚生労働省『令和4年版 厚生労働白書』
