妊娠と夫の年齢

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男性の年齢と妊娠にかかる期間

実は男性の年齢も「妊娠」には大きく関わってきています。

このグラフは、子どもが欲しいと思ってから子どもができるまでにかかる期間を男性の年齢ごとに比較したものですが、やはり40歳を超えると長くなっている。

先日、NPO法人FINEが主催する「ちゃんと知りたい男女の不妊」というイベントで『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』の著者、ヒキタクニオさんと一緒に登壇しました。

ヒキタさんは子どもが欲しいと思った時点ですでに45歳。5年の「妊活」を経て、我が子を腕に抱くことができたのですが、会場からは「何が一番効果があったのか?」という質問が出ました。

「断食をしたときに精子の運動率が7割まで上がった」とおっしゃっていましたが、会場にいる専門医は首をふっています。医学的には根拠がないのでしょう。ヒキタさんは結局「体合わせ、心合わせ」が一番大事という言葉で締めくくりました。

厄介なのは男のプライド

男性の妊活はこのように「ロマンあふれる」ものなのです。女性がやってはいけないのは、「男性のロマンをぶっつぶす」ような発言をしてしまうことでしょう。

不妊治療で負担が大きいのはやはり女性の体です。しかし男性の「プライド」も同じぐらい負担を感じている。互いへのいたわりと感謝の気持ちを大切にしたいですね。

「男性不妊」を書いた石川智基先生はこう言っています。

「不妊に悩む妻にとって、一番厄介なのが男のプライドです」
「男性の変なプライドが邪魔することによる時間の浪費は、子どもを持つ可能性をどんどん狭めていくものでしかありません」

とにかく「不妊かもしれない」と思ったら、一刻も早く夫婦で病院へ。35歳をすぎていたら、最初から相談に行ってもいいかもしれません。時間がもったいないからです。

何もなければよし。もし何か原因があれば、治療する……。普通の病気と同じです。

男性の精子に問題があった場合、「プライドを慮って言えない」と悩む妻もいますが、その悩む間も時は止まってくれません。一刻も早く夫婦で協力することが大事です。

喫煙、サウナ、育毛剤が悪影響

もし、運動率が悪かったら、生活習慣でもかなり改善できるそうです。喫煙やアルコール、長時間の自転車に乗る趣味、膝上のノートパソコンの長時間使用、サウナに長時間入る……。いずれも精子に悪い影響を与えます。内服薬では「育毛剤」や一部の「抗鬱剤」がよくないそうです。こういった生活習慣の改善すべき点も専門の男性不妊外来で指摘してくれます。

年齢がいけばいくほど、男女ともに健康であることが妊娠には重要です。

最近の若い世代は、草食系などと言われますが、素直に奥さんの言うことを聞いて、病院でもどこでもきてくれる人が多いようです。会場ではヒキタさんの本にサインをもらいながら、若いカップルの男性が「精子の運動率が……」と相談を持ちかけていました。双方とも笑顔です。こういうカップルがどんどん増えるといいですね。

出産ジャーナリストの河合蘭さんは、30代から卵子の老化をつきつけられる女性に比べ「精子がだらだらとしか老化しない男性には、なかなかそうした機会(加齢を実感する機会)がありません。本当は男性のほうが平均寿命が短くて時間は早く流れているのに、ほとんどの人は、せいぜい会社のメタボ検診で腹囲を測ってもらうことぐらいしかショックなことはなく、まだなんとか行けると思いながら、いきなりとりかえしのつかないことになってしまうのです」と書いています。(『卵子老化の真実』より)

不妊治療は夫婦の絆を結び、女性に比べて「老化」に気を使わない男性が、自分の健康を見直す、めったにないチャンスになるかもしれません。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『婚活症候群』(ディスカヴァー携書)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書) など。