不妊治療のイメージが変わった

「男性の数がすごく多い……カップルできている人が多い」。

先日、「過去、現在、未来の不妊治療者を応援する」団体、NPO法人FINEのイベントに登壇させていただきましたが、そのときの第一印象です。

FINEさんにはずっと取材でお世話になっています。イベントは2008年から年1回開かれているそうですが、ずっと参加している人によると「前とは全然雰囲気が違う」というのです。

とくに今年のテーマは「ちゃんと知りたい男女の不妊」。カップルで来る人が多いのもわかります。そして一緒に登壇したのは、作家のヒキタクニオさん。

『「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」』(光文社新書)はユーモラスに、そして生々しく、男性不妊の治療を書き綴ったノンフィクション。トーク中も自ら「ダメ金玉」と言って、何回も会場を笑わせていました。

こうして、不妊治療の「秘められたもの」「人には言えない」という雰囲気がどんどん変わっていく……。それは、治療経験や経緯を公にする、一般人はもちろん、芸能人やヒキタさんのような方のおかげなのです。

なぜ男性は、子づくりに二の足を踏むのか

40代まで気ままに生きてきたヒキタさんが「子どもを作ろう」と思ったきっかけは、奥さんに「あなたの子どもが欲しい」と言われたことです。

ここに大きなポイントがあるのですよ。

女性は「本能の呼び声」としか言いようのない思いに突き動かされ、出産の限界年齢の足音とともに、突然子どもが欲しくなることがよくあります。割とキャリア女性などに多いパターンなのですが、この「突然の野生の呼び声」とも言うべきものに、女性はなかなか逆らえません。

そして優秀な人ほど持ち前のリサーチ能力を駆使し、本を読み、サイトをチェックし、知識を蓄え、すっかり不妊治療のプロになったところで夫に打ち明ける。ところが、夫は寝耳に水です。妻の発する専門用語や卵子の老化の話などは、彼にとっては異国語も同然。

だいたい、男性は変化を嫌う生き物で、適応能力も女性に比べると低い。子どもという最大の変化に対して、ついつい「今の仕事が終わってから」とか、「まだいいんじゃない?」などという返事をしてしまう。

今は共働きが多いので、子どもが欲しいと目をキラキラさせる妻に対峙しながらも「えーっ、仕事どうするの? 君が仕事やめたら、今のマンションに住めないよ」という経済的事情も頭をよぎる。

「自然に任せればいいんじゃないか……」などとモゴモゴつぶやくと、さらに妻はヒートアップしてしまうのです。

夫を改心させた妻のひと言

「私は子どもが欲しいのに、夫はまだいいという」

こんな話は耳に「たこ」ができるほど聞いています。そんな夫に最も効くのはやはり「子どもが欲しい」という言葉ではないのですね。肝心なところが抜けている。

「あなたの子どもが欲しい」が重要なんです。

本にも書いてありますが、ヒキタさんの奥さんは、あまり「自由奔放」で「冒険心旺盛」な子ども時代をおくれなかったそうです。おうちが厳しかったのでしょうか?

一方でヒキタさんは、今も子ども時代も自由奔放です。楽しそうなヒキタさんの子ども時代の話を聞くうちに「こんな楽しい子ども時代を送った人の子どもを持ったらどんなに素敵だろうか?」という考えに至ったそうです。

そう、まず夫を説得したい女性は「あなたの子どもが欲しい」ということを伝えてくださいね。

しかし、そこからヒキタさんの「ダメ金玉」との戦いが始まるわけです。子づくりを思い立って病院に行ったところ、ヒキタさんの精子の運動率が「20%」だったからです。本書には涙ぐましい懐妊トレーニングの日々が綴られます。

ヒキタさんは子どもが欲しいと思った時点ですでに45歳。実は男性の年齢も「妊娠」には大きく関わってきます。

次回は、ヒキタさんの妊活やざまざまなデータを紹介しつつ、男性の不妊治療を上手に進めるコツについてお書きします。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『婚活症候群』(ディスカヴァー携書)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書) など。