不妊の原因は男性が半分

夫の「子どもはまだいい」を何とかするには、男性にも不妊や適齢期があることを知らせることです。

子育ては男女共通のものです。男性で育休を長く(3カ月ぐらい)取った人に言わせると、「子育てにおいて男女の能力差はない。差があるとしたら、おっぱいが出ないことぐらい」ということです。

ですから、「いつ夫婦は子育て期に入るのか? その間のワークライフバランス、家計、などをどうするか?」というのは夫婦で真剣に話し合いましょうね。

そのとき、うまく男性を導いていくのはやはり女性でしょう。なぜなら、女性と男性とでは妊娠・出産に対しての意識が、小学生と大学院生ぐらい違うからです。女性だけが焦って、でもうまく伝えられず悶々とすることも多いでしょう。知識に差がありすぎるからです。

まず、男性も妊娠適齢期を知ることが大切です。そして、不妊のリスクは男性が半分負っていることを知ってほしいと思います。

不妊にはいろいろな原因があります。「排卵因子」「子宮因子」「卵管因子」「男性因子」です。「男性因子」とは、精子がない、少ない、動きが悪いなどです。また最近多いのは「ED(勃起不全)」で、これも男性因子のうちです。

元気な精子が2匹しかない!

『妊活バイブル』でも男性不妊の例を取材しましたが、その男性は「自分が原因でも、早くに気がついてよかった。妻は問題なく若いから、治療して授かることができた」と言っています。

そのご夫婦は2人が28歳のときに社内結婚しました。2人とも忙しい仕事でしたが、奥さんが「子どもがすぐに欲しい」ということで、最初から子づくりには積極的でした。まず2人でタイミング法(排卵日に合わせてセックスをする。排卵日は排卵チェッカー(市販)などで測ると正確にわかる)で試し、2カ月ほどですぐに2人で病院にいきました。

「まさか自分に原因があるなんて、夢にも思わなかった」と夫は言います。

一方、奥さんは全く問題なし。そして夫は「元気な精子が2匹しかいない」という「乏精子症」と診断されました。

男性にとってはプライドを傷つけられる問題です。

その後2人で話し合い「不自然とか言っていられない。とにかく治療してがんばろう」という結論に達しました。

男性不妊の専門のクリニックで治療し、漢方薬などで改善し、顕微授精(体外受精。卵子を取り出し、1匹の精子をガラス管で注入し、受精させ、体内に戻す方法)で第1子を授かり、その後第2子も授かりました。

「男性はどうしても楽観的になってしまうので、奥さんが強く言ったほうがいい」と彼は言っています。

その後2人は「男性不妊の伝道師」のように、友人たちにこの体験を伝えるようにしています。すると、彼らの周りは早くに子どもを持つ人が増えたそうです。

知り合いで不妊治療に苦労した人がいたら、夫婦で、または夫から夫に話をしてもらうといいですね。

30歳を過ぎたら2人で検査へ

でも男性はこの手の話が苦手です。そして「自然が1番だろう」などと逃げてしまいがち。しかし、そこは譲ってはいけません。女性がリードするぐらいでちょうどいいと思います。なぜなら、遅い妊娠でのリスクを負うのは女性ですし、いざ不妊治療になっても、どうしても女性のほうが精神的、肉体的、時間的にも負担が大きいのです。

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年齢別にみた妊娠高血圧症候群の発症頻度

30歳を過ぎているご夫婦なら、とりあえず2人で(ここが重要です)、検査に行ってみることをおすすめします。若ければ、2人でタイミング法などを試してみてもいいのですが、自己流のタイミング法よりも、医師の指導のもとで行うタイミング法のほうが、確率が高いでしょう。

そして、何よりも男性は「専門家」の話に弱い。専門家から話をしてもらう方が、奥さんが説得するより早いのです。

最初に病院に行ったら、まず基本のスクリーニング検査を行います。女性は何種類もの検査が必要ですが、男性因子は「精液検査」でわかります。

その検査がイヤだという男性もいますが、男性のスクリーニング検査は1回ですみますが、女性は数回通います。女性の負担に比べたら、まだまだ男性はましだと思います。

男性の取材をすると「東大病院は素材が古い(いかにも昔風なAVが置いてある部屋に1人放置されるとか)」など、ちょっと笑ってしまうような話もたくさん聞きました。

それはさておき、検査で原因があればさらに精査し、適切な治療に入るという過程になりますが、ここでは「奥さんが淡々とすすめる」ことがコツだそうです。男性は内心はかなりビビっているはずなので、奥さんが感情的にならないほうがいいのだそうです。

繰り返しになりますが、とにかく重要なのは2人で病院に行くこと。例えばフランスでは公費で不妊治療が受けられますが、夫婦で行かないと治療を開始してくれません。それほど「2人の問題」だという認識が進んでいます。ある病院は「夫婦カルテ」を用意してくれるそうです。

日本でも昔は「女性の問題」と思われていた不妊ですが、今では「男性の原因が半分」と知られています。

ある女性は不妊治療をずっと受けていましたが、妊娠できない。頼み込んでやっと夫に病院に行ってもらい、夫が原因の男性不妊とわかったのですが、その時は奥さんの年齢が行き過ぎていて、結局妊娠できなかったという話を聞きました。

「男性がもっと早く来てくれたら、妊娠できたのに……」という残念なケース。男性のプライドが、女性の妊娠できる時期を奪ってしまったというケースです。

男女ともに最初に病院に行くのは、「子どもがほしい」という気持ちの温度差を埋め、共有するためです。

奥さんだけがどんどん情報を仕入れ、先行すると、夫はついてこられません。最近の若いカップルは「健康診断」に行くような気軽な感じで、「病院にいってみました」と報告してくれます。

そのぐらいのライトな感じになるといいですね。

男性も妊娠させる力が低下する

そして男性が「のんびりモード」になりがちなのは、女性と違い「自分はいくつでも大丈夫」と思っているせいですが、これも大間違いです。

前回(『キャリア女性が直面する「不妊」というガラスの天井』 http://president.jp/articles/-/10793?page=3)の「年齢別にみる排卵と妊娠率の関係」のグラフを見てください。男性が女性よりも5歳年上で、男性の年齢が40~44歳の場合、35~39歳の場合と比べると、妊娠率が10%下がっています。男性も年齢を重ねると妊娠させる能力が落ちます。男性の年齢も決して影響しないわけではないのです。

女性も男性も、妊娠適齢期や、男女の体について、早くから知るべきです。「女性手帳」ではなく男女ともに知る仕組みづくりが、少子化危機突破タスクフォース(第2期)で検討されています。私も女子大生にアンケートをとったところ、「妊娠適齢期について学んだことがある」という人はいませんでした。学校の保健体育の中にはあるのに、忘れてしまっているのですね。

そして「誰から、どんな形で習いたいか」という質問には「女医さんなどの専門家」から「学校の授業」でという意見が多かったのです。

私も印象深い授業にするために「外部の専門家」の導入は必要だと思っています。そして男性にも女性にも同じ知識を与えること。

私の妊活講座にも、カレシをひっぱってくる女子大生などがいて、真剣な顔で聞いてくれています。

そういった機会が増えるといいですね。男性に同じ話をしても、まだまだ「自分ごと」ではないのですが、少しでも心のどこかにひっかかっていてほしいと思っています。

今、女性だけが「働き、産み育てること」を担ってアップアップしているように思います。そんな女性たちの気持ちに寄り添い、「自分ごと」にしてくれる男性がいてくれればいいのですが、いなければ、夫を変えていく努力も必要なときがあります。「なぜ女だけ……? 不公平じゃない?」という気持ちもあるでしょう。でも、子どもがほしいと思うなら、これもそのための努力のひとつです。

子づくりをする気になったとしても、「子どもは自然につくるべきだ」「排卵日だから早く帰ってなどと妻がヒステリックになると、返ってできなくなる」という男性もいます。その場合、自然に子どもができる方法があります。それは「週4回」セックスをすることです。

そうすれば、排卵のタイミングを逃すことがないそうです。

4回は無理にしても、今子どもがほしいと思っているなら、1番おススメなのは、単純にセックスの回数をげること。2人の気持ちも体も寄り添わせることが妊娠への1番シンプルな近道なのです。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、白百合、東京女子大非常勤講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『婚活症候群』(ディスカヴァー携書)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書) など。