女性活躍・登用に向け、経営者の意識や職場の文化変革を促す東京都の新しい取り組み「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」事業がスタートする。なぜ、いま女性リーダーが着目されるのか。これからの時代にふさわしい新しい女性リーダー像とは。

日本のジェンダーギャップ指数ランキングは、いまだ先進7カ国中最下位

いま「女性活躍」「ダイバーシティ」を経営に取り込む企業が増えている。それに伴い、ここ数年で女性の経営者や管理職も増加傾向にある。女性活躍・ダイバーシティ推進のスペシャリストである(株)カレイディスト代表取締役兼CEO 塚原月子氏は、女性リーダーの必要性をこう語る。

「日本では、高度経済成長時代に『男性は仕事』『女性は家事・育児』という性別役割分担が定着しました。しかし、結婚後も出産後も働き続ける女性が多数派となったいま、『女性が家庭に入り、一家の大黒柱である男性を支える』という男女の役割分担は、決してサステナブルではありません。

国際的潮流からみても、日本のジェンダーギャップ指数ランキングが世界的に最低レベルにあるというのは問題です。2024年は過去最低だった世界146カ国中125位(2023年)から118位まで順位を上げましたが、依然として先進7カ国中最下位。しかも、東南アジア全体を見わたしても最下位という課題は残ったままです。ランキングを下げる要因となっている男女間のペイギャップ(賃金格差)と、女性管理職の少なさを解消するためにも、もっと女性リーダーを増やすことが必要です」(塚原氏)

塚原月子氏
株式会社カレイディスト代表取締役兼CEO。運輸省(現国土交通省)、ボストン コンサルティング グループ、カタリスト・ジャパンを経て2018年2月より現職。ダイバーシティ&インクルージョンの領域における専門家として、経営戦略とマッチしたD&I戦略の策定、組織課題の特定、行動計画の策定支援などを中心とするアドバイザリー、コンサルティングを行う。

若いうちから意思決定力を磨けば自信が生まれる

一方で、日本ではアンコンシャスバイアス(無意識の偏ったものの見方)が人事制度や働き方といった企業経営の根幹に埋め込まれており、それが女性リーダーの育成を阻む要因にもなっていると塚原氏は指摘する。

「これまでの、長時間労働・年功序列を前提とした時代には、男性中心社会の働き方が評価されてきました。これだと、出産や育児などライフイベントが多い女性は、キャリアを積み上げていくのがとても難しい。ですから、キャリアアップを諦めてしまう女性がとても多かったのです」(塚原氏)

また、数字上は女性管理職が増えているものの、これだけでは真の女性リーダーが育っているとは言えないと塚原氏は分析する。

「女性管理職が増えてきたといわれますが、部門別に調べると、女性は『4R』といわれる、いわゆる営業成績を持たない、人事(HR)、経理(IR)、広報(PR)、カスタマーリレーション(CR)などの部署で役職に就くケースが多く、収益を生む部署や技術開発部門のトップでは少ないという実態があります。さらに、男性と女性が同じ役職に就いた場合、部下の平均数をみると女性のほうが男性より少ないというデータもあります。これでは女性リーダーのやる気やモチベーションは上がりません。さらに、ちょうど重要なポストに就く時期と出産や子育てなどのライフイベントが重なるため、女性自らがリーダーになることを遠慮してしまうという話もよく聞きます」(塚原氏)

では、どうしたら女性がリーダーとして活躍できるのだろうか。

「具体的には、若いうちから女性にも意図的にホットジョブ(大きな予算や責任を伴う難易度の高い仕事)を与え、意思決定層にも積極的にアサインしていくという企業の姿勢が求められると思います」(塚原氏)

女性が管理職への就任に自信を持てないのは、経験や責任の少なさが影響しているという塚原氏。若いときから意思決定力を付けることで、自分の力で自分が正しいと思うことができるようになると話す。これは企業にとっても、大きなメリットだ。

「いわゆるZ世代では、キャリアや仕事と同じように人生や子育てを重視する人も増えています。男性同化組織内での管理職を見て、『あんな働き方はしたくない』と感じる人も多い。時代と世代によって求めるリーダー像が変わってきている以上、企業がリーダー像の再定義をしなければ、優秀な若い人財の採用機会を逸してしまうことにもなりかねません」(塚原氏)

ただ、比較的女性活躍推進に注力している企業でも、自社だけで取り組みを進めることは簡単ではない。とくに中小企業は取引先や同業者との関係で難しい場合も多い。そういうときに、東京都の支援は非常に有効だと塚原氏は話す。

女性を活用する経営戦略を大きなムーブメントにしていく

東京都では、女性活躍・女性登用に向けた経営者の意識や職場の文化の変革を促すため、2024年1月に「東京女性未来フォーラム」を開催した。30社の賛同企業とともに、女性活躍・ダイバーシティ経営の推進に向けた共同宣言を行い、これを実行していくための具体的な取り組みとして、「女性リーダーズ応援ネットワーク」事業をスタートさせた。

東京都産業労働局次長(理事〈働く女性応援担当〉兼務) 安部典子氏は、ネットワークの意義をこう語る。

「東京都では、誰もが希望を持って、いきいきと自己実現できる社会の実現に取り組んでいます。都民ニーズが多様化するとともに、グローバル化等への対応が求められるなか、多様性を尊重し、一人ひとりが活躍できる環境を整えるため、未来を切り拓く『人』に着目した施策に注力しています。女性活躍は東京都の施策の重要なテーマです。具体的には、社会のマインドチェンジと女性のキャリア形成支援に取り組んでいます」(安部氏)

本事業は経営戦略として女性活躍やダイバーシティ経営を実現しようとする企業のネットワークを形成し、その取り組みを後押しするものだ。まずは一社でも多くの企業に共同宣言に賛同してもらい、その企業の従業員たちが女性リーダーとなることを応援していく。

「社会の仕組みや意識を『変えていこう、東京から。動かそう、日本を。』という想いで大きなムーブメントにしていきたい」と安部氏は言う。

東京都産業労働局次長(理事〈働く女性応援担当〉兼務) 安部典子氏

これからの女性リーダーに重要なワークライフミックスな生き方

また、「リーダー」の定義も重要だ。自身も3人のお子さんを抱えながらキャリアを重ねる塚原氏は、「部下を管理することだけがリーダーではない」と話す。

「リーダーシップを発揮するには、必ずしも役職にこだわる必要はないと思っています。上下関係に限らず、チームとしてビジョンを示したり、多様な人財をまとめたりというのは、本来女性のほうが得意な領域です。自分が正しいと思うことを、自信を持ってやり続けることでまわりに影響力を発揮していくというリーダーの在り方も素敵ですよね。ただ、チャンスがきたときには『自分なんか』と思わずに、ぜひ挑戦してほしいと思います。ダメなら一度引いて、また挑戦すればいいだけの話ですから」(塚原氏)

さらに、仕事、家事、子育て、介護を全部完璧にやろうとする必要はないと塚原氏。

「仕事が大変なときは家庭に逃げて、育児や介護に行き詰まったら仕事に逃げる。そういう『ワークライフミックス』な生き方も、これからは重要になってくると思います」

東京都としては、女性リーダーが当たり前になり、いずれ「女性活躍」という言葉がなくなる社会を目指しているという。

「女性が自分の生き方に自信を持ち、リーダーになることを当たり前に選択するようになれば、男性とはまた違う知恵やアイデアが出てくると思います。それが結果的に、仕事でもよい効果を生み出すことにつながっていくのではないかとみています」(安部氏)

さらに、身近な人が登用されることで、自分もやってみようと思う女性が加速度的に増えていくのではないかと安部氏は期待している。

「ぜひ上手に東京都を活用していただきたい。社外の方とも切磋琢磨しながら個性を磨き、これまで自分には管理職は難しいと思っていた方も自分でブレーキを踏まないで、自分が希望する生き方にチャレンジしてほしいと思っています」(安部氏)

「私らしい」リーダーの在り方が見つかるプログラム

東京都が推進する「東京女性リーダーズ応援ネットワーク事業」には大きく2つの取り組みがある。1つ目の取り組みは、女性リーダーの育成だ。賛同企業の女性従業員を対象に、リーダーに必要なマネジメントスキル等を学ぶ。

「企業の枠を超えて経営層や管理職と交流する機会を設け、他社の仲間と切磋琢磨し、自信と実力をつけていただくとともに、悩みを共有し、励まし合える関係性を築ける場にしていきたい」と安部氏は語る。

そして、2つ目の取り組みは企業交流会。すでに取り組みが進んでいる企業からの事例紹介やグループワークを通じて、女性活躍を進めるための方策やヒントを得たり、同じ悩みや課題を持つ企業同士で情報交換する機会を提供する予定だ。

「企業交流会をきっかけに、多くの企業に宣言内容にご賛同いただき、ネットワークに参画いただきたいと思います。取り組みをこれから進める企業でも、意欲があれば参加が可能です」(安部氏)

仕事と人生の両方を豊かにし、業種を超えた、将来を担う女性リーダー同士のネットワークも構築できるのが特徴。参加することで自身の世界を広げ、変化の激しい時代に活躍していく、「私らしい」リーダーの在り方が見つかるはずだ。

※「女性リーダー育成プログラム」への参加は、所属する企業が「東京女性未来フォーラム共同宣言」に賛同している必要がある。詳しくはホームページで確認を。