起業家ではなく、「女社長」と呼ばれていた
――佐々木さんと松井さんは普段から交流があるということですが、いつごろ知り合われたのですか?
【佐々木】1999年に、キャシーさんが「ウーマノミクス」のレポートを発表しましたよね。「女性の労働力が上がれば日本経済は活性化できる」という画期的なデータでした。1996年に日本で初めて女性向けのサイトを立ち上げ、長年ダイバーシティをテーマに仕事をしていた私は「素晴らしい。これこそ私の求めていたものだ」と興奮して、ゴールドマン・サックス証券のキャシーさんのオフィスまで行ったのです。キャシーさんは覚えていないかもしれないけど……。
【松井】もちろん、覚えていますよ。かをりさんはとにかくエネルギッシュな人で、ダイバーシティ実現に向けた熱意を感じました。とにかく変化を起こしたいということがひしひしと伝わってきましたよ。
【佐々木】その後、キャシーさんが日本にいない時期もありましたけど、国際女性ビジネス会議などにご登壇いただいたりと、連絡は取り続けていました。東京都の「NEW CONFERENCE」でも、1回目の企画段階からご一緒しています。
【松井】そうですね。それに今、お互いに子供が大学生で、進学先の情報交換をするなどのプライベートなお付き合いもありますね。ママ友みたいな(笑)。
【佐々木】そうそう、同じ大学を見学に行ったり、プライベートな面でもサポートしていただいています。
――20年以上前から女性リーダーの育成に寄与されてきたお二人ですが、その頃、女性起業家をめぐる状況はどうだったのでしょうか。
【佐々木】私が2000年にイー・ウーマンを立ち上げる前、最初の会社、国際コミュニケーションを支援するためのユニカルインターナショナルを立ち上げたのが1987年。当時はまだ「起業家」という言葉がほとんど使われていなかったんです。だから、私はどこでも「女社長」と呼ばれていました。
【松井】当時、アメリカでは起業する女性は珍しくありませんでしたが、日本では本当に少なかった。かをりさんはアイデアを考案し、自らサポーターを集めて起業を実現した人なので、尊敬しています。
【佐々木】確かに珍しい存在でした。今は起業家がたくさんいて、「NEW CONFERENCE」のプロジェクトのように東京都が女性起業家の成長を支援するプログラムもあって、当時の私からすれば、本当にうらやましいです。
いったんつながれば、女性のほうが長続きする
――11月1日にオンラインで開催される「NEW CONFERENCE」は東京都が主催する女性経営者を応援するイベントです。自治体がこういった事業を展開することをどのように評価しますか?
【佐々木】素晴らしいですよね。去年もオンライン開催でしたが、多くの人が参加されました。「NEW CONFERENCE」を含め、東京都の女性活躍推進事業は、予算を付けて継続的に発展させている点が素晴らしい。というのも、起業家に対して「応援しているよ」と励ましてくれる人はたくさんいても、成長に向けての具体的な助言をくれる人や、お金を出して商品やサービスを買ってくれる人が少ないのです。だから実際に目に見える形で支援していることに魅力を感じています。
【松井】あと、女性が起業する際に苦労するのは、ビジネス界での人的ネットワークがあまり強くないことと、経営の専門的知識やノウハウがないこと。
【佐々木】そもそも男性のように、ビジネスの場に知り合いが多くないですからね。例えば「大学の同級生が銀行の融資担当」というようなボーイズネットワークがない。でも、いったんつながりを作ると、それを長続きさせられるのは女性のほうだと思います。
【松井】その点、「NEW CONFERENCE」では横のつながりが作れますし、かをりさんが言うように「ビジネスモデルをどう作るか」というノウハウを教えてくれる場でもあります。そういう意味での役割は大きいと思います。
【佐々木】「NEW CONFERENCE」は、どうしたら良い人材を採用できるか、どうやったら営業力がアップするかなど、起業した後の、会社を育てていく方法を考えるのがメインテーマです。年に一度の大きなイベントのほかにも、テーマ型のセミナーや、専門家や先輩経営者に相談できる「メンタリング」もあります。その上、全12回の「経営基礎コース」はMBA入門のようなコースで、経営とはなにか?ということから、決算書の見方や企業法務、ネットワーキングなど経営の専門的な知識が学べ、最後には、成長に向けての事業計画書を書き、プレゼンテーションもします。本当に中身の濃い授業で実用的です。
【松井】今後は以前に参加した“卒業生”にも集まってもらい、次世代の経営者をどうやって育てあげていくのかということも話し合えるようになるといいですね。
【佐々木】そうですね。誰でも明日にでも社長にはなれる。しかし、起業した後、どうすれば継続させ、規模の拡大が実現するのか。この点が女性経営者の課題ではないかと、小池都知事が疑問を持たれて始まった事業だろうと思います。
企業にとってESGは無視できない
――佐々木さんは現在2つの会社の社長ですが、松井さんも2021年5月にESG(Environment、Social、Governance)重視型のベンチャーキャピタルファンドMPower Partners Fund L.P.を立ち上げられましたね。起業していかがですか?
【松井】まだ立ち上げてから3カ月しか経っていませんが、毎日がワクワクの連続ですよ。立ち上げの際一番重要だったのは、そもそも「この会社がなぜ特別なのか」という差別化を図ることでした。「なぜわれわれのチームがこのビジョンを実現するのに適任なのか」というストーリーを作らなければならなかったので、さまざまな人にご意見をいただき、最初に考えていた事業をもう少しシェイプアップして、ESG重視型のグローバルベンチャーキャピタルファンドになりました。
【佐々木】キャシーさんならではの、素晴らしい事業だと思います。私もESGという単語が生まれる前からダイバーシティ経営について講演やコンサルティングを提供し、「多様なステークホルダーに気が配られている経営のほうが伸びるし、尊敬される」と伝えてきました。現在はその考えがまさにグローバルスタンダードになってきたと思います。
【松井】日本の企業はESG投資においては出遅れていますが、これから、この流れは無視できない。特に今はパンデミックの世界的危機なので、アメリカやイギリス、ヨーロッパにおける大企業の存在意義というのは、これまでは株主が第一でしたが、その他のステークホルダーも重視するようになってきました。例えば「執行役員に女性がいないのはどうしてですか?」といった質問が大企業にはどんどん届いているのが現状です。
【佐々木】日本の企業の多くは少し勘違いをしていると感じます。「女性管理職比率が15%になったからこれでいいよね」というような、人数を増やして終わらせてしまう傾向が見受けられる。だから私たちは上場企業向けに「ダイバーシティインデックス」という指標を作ったのです。組織内部において本当にダイバーシティ&インクルージョンが進んでいるのかを、サーベイとテストで数値化して、非財務情報を可視化しています。ESG投資の指標になるように。
――最後に、経営者にとって重要だと思われることは何ですか?
【佐々木】一言でいうなら「パッション」。情熱が全ての原動力です。
【松井】私は「ビジョン」ですね。自分だけがビジョンを持つということではなく、みんなが賛同するビジョンを作ることだと思います。
【佐々木】そうですね。みんなで「目的」を共有しながら会社を動かしていくのはやはり楽しい。そして、やるからには成功させたいものです。経営者の皆さん、またはその予備軍の方、ぜひ「第4回NEW CONFERENCE」に参加してみてください。
第一線で活躍する女性経営者たちの声を生配信で!
東京都発、女性たちのビジネス会議
女性経営者による基調講演ほか、「オンライン時代の経営シフト」「1億円を目指す!~経営者としての覚悟」「人材を採用し組織を動かす」など、5つのテーマでトークショーを開催。東京女性経営者アワード受賞者の表彰式、小池百合子都知事の挨拶、参加者同士のオンラインネットワーキングも。ふるってご参加ください!
●開催日時/2021年11月1日(月)13:15~18:30
●主催/東京都
●対象/企業・団体の代表者、経営者層、個人事業主など(男女不問)
●実施方法/オンライン(ZoomとYouTubeによるライブ配信)
●参加費/無料
●申込期限/11月1日(月)13:00