IT人材の不足やデジタル対応の遅れなどから、企業のDXが喫緊の課題となっている。そうした中、コロナ下でもIT投資の冷え込みの影響を受けることなく、名だたる有名企業の幅広いシステムを手がけているのがJSOLだ。デジタル化を加速するためにも、進化を迫られている日本のIT業界の現状や、今後求められるSIer(システムインテグレータ)の役割、そこで活躍できる人材像について、JSOLの前川雅俊代表取締役社長に話を聞いた。

SI事業では、全工程を一気通貫でできる体制が強み

――少子高齢化や「2025年の崖」など、IT人材の不足や企業のDX対応の遅れが指摘されています。前川社長は日本のSI(システムインテグレーション)業界をどのように見ていますか。

全国的にみれば、たしかにIT人材が不足していると思います。しかし、おかげさまで当社には優秀な社員が豊富に揃っておりますし、お客様を見ても、数年前から業界をリードするような大手企業ではCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)を立て、計画的、戦略的にDXを進められています。日本が大幅に遅れている印象はありません。

――JSOLでは幅広い業種、業態のシステムを手がけていますが、SI業界における貴社の特長について教えてください。

JSOLは日本総合研究所というシンクタンクのSI部門が独立して生まれた会社で、その後NTTデータと合流しました。コンサルティング文化と最高の技術力を併せもつ会社です。ご指摘のとおり、社員数1200人という規模の割に製造業や流通・サービス業、金融機関、公共分野まで、非常に幅広く手がけており、ほとんどが有名企業です。

SI事業について言えば、要件定義から設計・開発・試験・運用までの全工程を一気通貫でできる体制を持っているのが最大の特長です。製薬業界上位のお客様の大半が当社のお客様であり、それも強みになっています。

一方で、長年に渡りCAE(Computer Aided Engineering)を手がけてきたことも当社ならではです。CAEとは「ものづくり」におけるシミュレーション技術で、メーカーは試作品を作らずとも、さまざまなバーチャル上の実験が可能となるほか、電磁波の影響などもシミュレートできるため、現在はEV開発のサポートも盛んに行っています。

こうした幅広い事業を、①金融機関におけるSIソリューション、②一般企業におけるSIソリューション、③CAEソリューションと大きく3つにグループ分けして事業を進めているところです。

前川雅俊(まえかわ・まさとし)
株式会社JSOL 代表取締役社長
名古屋工業大工学部卒。1982年日本電信電話(現NTT)入社。88年NTTデータ通信(現NTTデータ)。2012年NTTデータジェトロニクス社長、16年NTTデータフロンティア社長を経て、17年6月から現職。

顧客に「こうしましょう」と提案していくモデルに変わる

――デジタル化が高度化・加速化する社会において、SIerの役割も変わっていくでしょうか。

経営にデータ活用が不可欠な時代となり、企業にはDXへの対応が求められています。ただシステムを新しいものに置き換えるのが、DXの本来の目的ではありません。DXとはデータを活用した経営モデルへシフトすることであり、本当の目的は会社の経営に結びつけて戦略化することです。

そうした中で、SIerはこれまでのように「お客様のご要望通りに作る」のではなく、こちらからお客様に「こうしましょう」と提案していくモデルに変わっていく必要があります。私たちは「今はない、答えを創る。」というブランドメッセージを掲げており、ICTサービスコーディネーターとしてお客様の未来の経営を支える存在になろうとしています。

そのために社会のあらゆる現象を数式に置き換えて、これまでの経験では気づかなかった法則性を見つけていく。それが、これからの私たちの仕事だと考えています。

これからのIT業界で活躍するのは「自分で考えて、行動できる人」

――JSOLでは「人こそ最高の財産」と強調しています。今、貴社で活躍している人たちはどんな人たちなのでしょうか。

頭に「超」がつくほど真面目ですね。上からの指示に忠実という意味ではなく、お客様に託された仕事への責任感と情熱を持っている、という意味です。時には上司の意見にも「いえ、お客様がこう言っていますので」と聞かないことさえありますから(笑)

――前川社長が求めるこれからのJSOLで活躍できる人財像について教えてください。

自分で考えて、行動できる人ですね。自主性をもった人にこそ、この業界に来てもらいたい。そのために当社では「働きがい」のある職場づくりに注力しています。

社員にとって働きがいのある環境を実現することが、企業業績の向上につながる、というのが当社の基本的な考え方です。そのうえで着目しているのが「エンゲージメント」、つまり「約束」。会社と社員が方向性を共有し、働きがいを重視することで社員エンゲージメントはさらに高まる。そうすると社員はお客様満足をさらに重視し、お客様と当社との顧客エンゲージメントがより高まる。その相乗効果によって会社の業績が向上し、社員に還元される。この循環を作ろうと中期経営計画に組み込んでいます。

具体的な施策としては、3年前からGPTW(Great Place to Work®)の調査基準で評価される職場づくりへの取り組みです。GPTWは世界約60カ国で、働きがいに関する調査の結果が一定水準を超えた企業を「働きがいのある会社」ランキングとして発表している専門機関で、JSOLは19年に15位、20年には9位、21年は18位と連続してベストカンパニーに選ばれています。

JSOLはGPTW(Great Place to Work®)の「働きがいのある会社」ランキングで2019年に15位、20年には9位、21年は18位と連続してベストカンパニーに選ばれている。

AIに人間の代わりは務まらない

――働きがいのあるオフィスとはどのようなものか、現在の社内環境について教えてください。

まず風通しがいい職場です。当社には社長室や役員室がありません。社員は嫌がっているかもしれませんが、私も他の役員も、社員と同じフロアに席を置いており、社員の近くにいる時間が多い。

複数の部門で共同作業を行うことも多く、部門間の人の“交流”も頻繁に行われていますし、今後、仕事の質の違うSI部門とCAE部門との交流を意識的に図っていきたいと考えています。

部門間の垣根がないことで自分の専門以外の仕事に触れる機会が多く、幅広い経験や知見を得られますから、本人に意欲さえあればさまざまな経験をするチャンスは豊富で、キャリアの幅を拡げられる職場環境だと思います。

――前川社長が社員に期待していることは、どんなことでしょうか。

社員には、会社に誇りを持ってもらいたいです。その意味からSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)に積極的に取り組んでいます。もともと事業の柱の1つであるCAEのシミュレーション技術は、メーカーが試作品を作って捨てる工程を省く環境に優しい技術。本業を通じてサスティナブルな世界の実現に寄与する会社であることは、社員の誇りに繋がっているはずです。

――いずれ人間はAI(人工知能)に仕事を奪われると言われている中で、JSOLは「人」重視の考え方で貫かれているところが興味深いです。

数多くの製造現場を見てきた結論として、単純作業は置き換えられても、クリエイティブな発想や熟練の技術者の目利きはAIにはできず、最後は人の力が必要です。人間の仕事がAIに奪われることはないし、人間がAIに使われることにもならないことは言っておきたい。デジタル技術が進んでも、やはり社会や組織を支えるのは生身の人間なんです。そういった気概を持った人たちに当社に来ていただきたいですね。