Shiho S.
アクセンチュア株式会社 製造・流通本部 シニア・マネジャー
「この先も、子どもの成長に合わせて働き方やポジションは変わるかもしれません。でも、この会社で働き続けたいですね」。こう微笑むのは、アクセンチュア製造・流通本部の経営コンサルタント、Shihoさん。時短勤務で2人の子どもを育てながら、会計領域を専門とする経営コンサルタントとしてときに100人規模のプロジェクトを担当する。Shihoさんはどのようにして、育児と仕事のバランスを見つけたのだろう。

「仕事を諦めたくない」と悩んだ育休明け

残業をいとわず成果を追求する、という外資系コンサルタントのステレオタイプなイメージを打破しているのが、アクセンチュアだ。同社はトップ主導のもと、2015年から独自の働き方改革「Project PRIDE」を推進。現在では残業時間は一人1日あたり1時間以下。離職率はプロジェクト実施前よりおよそ半減し、子どものいる女性社員数は2007年と比して12倍に増加している。新卒で2002年に入社したShihoさんも、その変化を実感している。

「日本で働き方改革が叫ばれるようになったのに先駆ける形で、会社全体で働き方への意識が変わっていますし、女性社員がずいぶん多くなっているのも肌で感じます」

こう話すShihoさん自身、この10年近くで働き方を大きく変えてきた一人だ。

娘と息子の2児の母でもあるShihoさん。「長女が生まれてから1年くらいかけて、自分の気持ちと仕事への取り組み方を大きく切り替えました」と話す。

現在は時短勤務で、夕方には保育園の息子と小学校の娘とともに時間を過ごすShihoさんだが、10年前までは時間を気にせず仕事に打ち込む、いわゆる「バリバリ」のコンサルタントだった。

「私の所属する製造・流通本部は、自動車やインフラ、消費財、流通・小売りなど、非常に幅広い分野を対象としています。さまざまな企業の課題解決を目指して、自分の会計領域の専門性を生かしながら仕事をできるのはとても刺激的。そしてプロジェクトという一つの目的に向かって、みんなで一生懸命になれる職場が好きなんです」

だからこそ、出産・育休を経て時短で職場復帰する際は不安が大きかった。

「1人目を産んで戻ってきたときは、今までと同じ働き方ができない中で、どれだけ成果を上げられるのか、心配が尽きませんでした。頭でわかっているつもりでも、心の中では100%仕事を諦めきれていなかったと思います」

仕上げたい報告書があれば残業をしたり、帰宅後には子どもの寝かしつけを終えてからレポートに取り組んだりと、無理を重ねた。育児と仕事の狭間で、一番悩んだ時期だったという。

「結局、無理に夜遅くに仕事をしても効率が悪くて、成果につながりませんでした。頑張りで穴埋めするのに限界があるなら、仕事の仕方そのものを変えないといけない。自分の思いどおりに時間が使えないという事実を受け入れ、折り合いを付けるのに、1年ぐらいはかかりました」

スーパーウーマンではなく、等身大の自分にできること

Shihoさんが選んだのは、出産前同様に仕事をしてさらに育児もこなす“スーパーウーマン”ではなく、等身大の自分にできる“仕事の質を上げていく”ことだった。

「プロジェクトメンバーの力を借り、任せられることは思い切ってメンバーに任せたり、不要なミーティングは減らすなど、仕事の効率化は当然意識しました。社内に時短勤務への理解が広がってきたおかげで、スムーズに協力を得られたと思います。もう一つ重要なのは、社外の方とのコミュニケーション。シニア・マネジャーとしてお客様と打ち合わせる立場で、時短勤務の事情を理解していただくには、まずは『価値を提供してくれる人』と認めていただくことが大事。お客様の多くの方は年上の男性ですが、信頼関係の基盤ができていれば、先方から『帰らなきゃいけない時間だね』と声をかけてもらえるようになります」

時短勤務でもスムーズに仕事が進むよう、クライアントとの信頼関係構築には気を配ったという。※写真はイメージです(写真=naka/Adobe Stock)

しかし、どれだけ準備をして物事にあたっても、子どもの病気など予期しないことがあれば予定を変更せざるを得ない。そんな状況で大きなプロジェクトに取り組めたのは、プロジェクトの上司やキャリアカウンセラーの先輩など、「何かあったときに助けてくれる人」が周囲にいたおかげだと、Shihoさんは言う。

「いざというときに頼れる人がいるか、いないかで、仕事に臨む心持ちは違いますね。管理職になると相談できる相手がすぐそばにはいなくなってしまいます。私の場合は、仕事だけでなく、例えば離乳食を食べないだとか、子どもが学校に慣れないとか、そうした日々の子育ての悩みも打ち明けられ、理解を示してくれる人が支えになりました」

子どもたちに悩まずに仕事できる社会を残したい

2人目の復帰後は時間の使い方のコツも見えてきた。それでもShihoさんは、育児と仕事のバランスをまだ模索している最中だという。目下の課題は、今春小学校に入学した娘の、いわゆる「小1の壁」だ。

「小学校にあがると子どもとの関わり方が保育園のときとはまるで異なります。新しい環境になじもうと頑張る娘を親として支えたいと思いますし、仕事のボリュームもコントロールする必要があるかなと考え始めています。周囲にも育児に専念するために一度スローキャリアを希望し、会社の支援制度を活用したり、空きのあるポジションに自由に異動希望を出せる仕組みを使って部門を移ったりという方がいます。転職に踏み切らずとも、社内にいろいろな選択肢があり、働く環境を都度選んでいけるのがアクセンチュアの良いところです」

出産や育児のほかにも、親の介護や自分自身の病気など、予想外の出来事は誰にでも起こりえる。直線的なキャリアを歩める人はむしろ少数派だろう。アクセンチュアでは、個々の事情を認め、その人らしく働き続けるための支援策を用意している。

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子育てにしっかり専念する人、本格的に仕事に復帰したい人など、キャリア観や事情に合わせて働ける。Case1からCase3へのシフトも可能。もともとプロジェクト単位で、フェーズ毎にチーム編成を繰り返す業態だからこそ、シフトチェンジのタイミングが多いのもアクセンチュアの特徴だ

「仕事と育児の両立に悩みながら、それでも、私はこの会社で働き続けたいと思っています。そして、かつて私が通った道を歩んでいるような部下にも、相談相手として寄り添えるよう日々心掛けています。子どもたちに対しては、母親である私が社会につながっていることで、教えられることがきっとあるはず。そして、子どもたちが社会に出たときには、育児と仕事の両立で悩まずにすむ未来を創っていければと思っています」

アクセンチュアでは、女性社員が自分自身でキャリアを考え、活躍していくことを支援しています。

Edit=Embody Photograph=金城 匡宗(インテンス)