転用できない建物は、つくるな!

「いずれにせよ、目先の入居テナント専用に建物をつくったり、過度にコストのかかる建物をつくるのはリスクが大きいです。先に申し上げたように、流行り廃りの激しい時代にあっては、様々な業種のテナントに対応できるだけの汎用性が必要です。間仕切りの壁を取り払えない、大空間を確保するための柱が抜けないなど、柔軟に転用できない建物は将来的に危ういと考えてください。また、余りにもオーバースペックな建物を用意しても、10年で最初のテナントが出ていって、その後はテナントが入らないという状況に陥れば大赤字となります」

つまり、あくまでも骨組みと外壁だけになった状態、すなわち“スケルトン”の状態で、汎用性と収益性と換金性のバランスを考慮しなければならない。しかも、交渉相手となるテナント側は百戦錬磨の曲者揃い。「絶対に損をしない」仕組みづくりには余念がない。

「最初はテナント側も地主・家主にとっておいしい言葉をたくさん並べます。たとえば『今は出店優先だから、採算度外視の賃料で契約します』などといったように。でも、『賃料は2年後に再交渉して大幅に引き下げてもらえばいいや』という腹なんです。地主としては『賃料がゼロになるよりはマシ』と受け入れざるをえません。借金があれば交渉力が弱まることを見透かしているわけです。『話が違う』という事態に陥っても『出ていけ!』とまでは言えないわけで、テナントに言われるがまま賃料を引き下げざるをえなくなるのが常なのです」

もちろん、地主・家主に不満があるなら賃貸借契約を解除することも可能だ。ただし、そんな場合でもテナント側は、法律の専門家が用意周到に最初から「損害を被らない契約書を用意している」という。

「だからこそ地主・家主としては、高い自己資本比率を維持したり、リスク管理としての出口戦略をしっかりと立てておく必要があるわけです。それ以外に、テナント側の老獪な知恵に対抗する手段はないと考えたほうが無難です」

おいしい言葉の中には、高い“利回り”を説得材料として提示してくるケースもある。

「利回りなんてものは、捕らぬ狸の皮算用と言わざるをえません。当初は収益性が高くても、それがいつまで続くかはわからないのですから」

こうなると、地主・家主の味方はいないものかと同情すらしたくなってくる。

「日本の法律はそもそも、借地人や借家人に有利なんです。不動産会社、建築会社、設計会社、テナントの言いなりにならないためには、少なくともセカンドオピニオンは必要です。最近では私のような不動産と相続を専門にするコンサルタントも増えてきました。不動産鑑定士やFPの中にも、不動産に関するコンサルティングを得意とする人がいます」

話が多岐に及んだ。最後に、山崎氏に結論をまとめてもらおう。

「土地活用を考える時、“失敗”“悪くなったら”を織り込んでおかなければ痛い目に遭う可能性が高くなります。結局、一番のリスクを負わされるのは地主・家主です。美辞麗句やきれいなパンフレットに惑わされてはいけません。いつでも借金を一括返済できるような財務体質にしておくことが第一歩。そして、長期的な収益性を確保するカギは建物の高い汎用性にある。あとは、失敗した時に逃げられる出口戦略を用意しておくこと。これに尽きます」

山崎 隆(やまざき・たかし)
財営コンサルティング代表取締役
1960年東京生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒。大手住宅メーカー、外資系生命保険会社、不動産コンサルティング会社を経て、96年に独立系の資産運用コンサルティング会社、財営コンサルティング株式会社を設立。『やってはいけない相続税対策と遺産分割』など著書多数。一級ファイナンシャル・プランニング技能士(厚生労働大臣認定)。