消費税、五輪より影響大の「2022年問題」

不動産価値は、その時々の経済環境や社会情勢に左右される側面もある。特に、バブル崩壊の後遺症がいまだ根強いせいか、不動産価格の下落要因とされる“噂”に対しては、敏感になっている人も多いだろう。

とくに直近では、消費増税の影響を危惧する声がある。

「消費増税については、住宅や自動車など値の張る物については税制優遇措置や給付金、エコポイント付与など緩和措置が見込まれるので、駆け込み需要やその後の落ち込みは懸念されているほど顕現化することはないと考えられます。

ただし、京都大学大学院が行った消費者心理実験によると、消費税が8%から10%に引き上げられることによって1.4倍の買い控え効果が生じ、とりわけ女性は買い物に行く回数が3分の1に減るとのことです。10%は誰でも計算しやすく、1万円の買い物をすれば1000円の消費税がかかると、瞬時に明確な金額をはじき出せるからです。

もちろん、このような調査は、質問時の聞き方の問題がありますので実験通りになるとは限りません。しかし、もし現実のものとなれば、景気悪化の影響を不動産市場も受ける可能性があります」

見方によっては、消費税が上がっても価格が下がれば購入しやすくなるというわけだ。消費増税後の市場動向を見てから不動産購入に踏み切るのも一つの方法なのかもしれない。

東京五輪の影響はどうか。「オリンピックの崖」という言葉が飛び出すほど、20年東京五輪開催の前後では景気の著しい浮沈が起こると、かねて言われてきた。となれば当然、不動産市場にも大きな影響がありそうだ。

「私には、根拠に乏しい説のように聞こえます。新興国や経済のパイが小さな国であれば、景気や不動産価格が激しく上下動することもあるかもしれません。しかし、先進国では考えにくいことです。実際、英国政府は12年に開催された『ロンドン五輪が不動産市場に与えた影響はなかった』というレポートを発表しています。

選手村ができる湾岸エリアの一部は影響があるかもしれませんが、それ以上でもそれ以下でもないと考えていいでしょう」

20年には五輪特需による建設ラッシュも一段落し、建築費が下がり不動産を購入しやすくなるとの説もある。

「建築現場の人手不足が解消する見込みが立っていないので、建築費が下がるとは考えにくいです。現場の職人は平均年齢が60歳を超えているのが実状。かつて600万人いたのに今は400万人。大工さんを確保できないから、普通であれば3カ月で終わるような案件も半年以上かかる。高止まりしている建築費が下がる要素は見つかりません」

そうした中、都市部の地価に大きな影響を与えそうなのが「2022年問題」だ。

これは1991年の生産緑地法改正にかかわるもの。市街化区域内で生産緑地に指定されると税制面で大きな優遇措置を受けられる代わりに、農地として30年間営農することが義務づけられた。初年度に指定を受けた生産緑地は、22年に営農義務が外れるため宅地に転用できる。

「一昨年あたりから様々な自治体が地主にアンケート調査をしています。その答えを見ると8割から9割が『今は売る予定はない』というものです。でも、5年ほど先のことなのですから、そうした答えが多いのは当然でしょう。

また、この問題は後継者がいるかどうかが最大の判断ポイントとなります。後継者候補とまだ十分な話し合いができていない段階では、答えようがないというのが実状なのです。

市街化区域内で生産緑地に指定されている土地は、東京ドーム3000個分あると言われています。その4分の1程度の800個分くらいは市場に出てくるのではないでしょうか」

これらの土地はみな、都市部にあるわけだが、やはり立地によって悲喜こもごもの結果を生みそうだ。

「駅近ならマンションとなり、少し離れれば一戸建て、土地を売らなくても相続税対策としてアパートが建つ。つまり、いずれにしても全体として住宅数が増えてしまうことは間違いありません。当然、不動産価格を引き下げる力として働きます。

ただ、人気のエリアや駅近など立地のいいところであれば、価格の低下もほとんどなく即完売となるはずです。一方、駅から離れた土地なら取引不能となり、周辺の不動産価格も下落する可能性があります。どちらをお買い得と考えるか――、将来まで見据えて考える必要がありそうです」

(小澤啓司=文)

長嶋修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント。さくら事務所会長。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、社長を経て現職。マイホーム購入・不動産投資など、不動産購入ノウハウにとどまらず、業界・政策提言や社会問題全般にも言及するなど、精力的に活動する。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。『100年マンション資産になる住まいの育てかた』『不動産格差』『不動産投資 成功の実践法則50』など著書多数。