キーワードは「フレキシビリティー」と「アジリティー」

集中スペースは用途によってスペース分け。

そうした中でオフィスビルの市場は「貸し手市場」から間違いなく「借り手市場」へと大きく変わりつつある。オフィスビルは競争の真っただ中にあるといえるだろう。この競争を勝ち抜くためには差別化が求められる。

では、どのような差別化が求められるのだろうか。

CBREが実施している「オフィス利用に関する意識調査2016」によると、企業がオフィスを選ぶ際に重視する項目のトップ3は「立地・交通利便性(98%)」「コスト(81%)」「耐震性(63%)」。この3つが上位に挙げられる傾向は、ここ数年変わらない。

透明感あふれるガラス張りの会議室。

一方、「従業員にとって何を重要と考えるか」という設問に対する回答結果のトップ3は、「交通利便性(89%)」「室内環境の質(73%)」「フレキシブルな働き方(40%)」。オフィスの中でどのような執務環境を提供するかということについて、企業側の意識が変化しているという。

「女性や高齢者の労働市場への参加率が高まり、ミレニアル世代が社会の中核に上がりつつある中で、より自由度の高いオフィス環境=ワークプレイスが求められるようになってきています。従来と違うワークプレイスを検討・採用する企業もすでに増え始めています。しかしフリーアドレスなど新しいワークプレイスを導入したオフィスでも、働き手のニーズに十分マッチしているとはいえないようなケースも多いようです」

CBREのリサーチ アソシエイトディレクター、貝畑奈央子氏はこう語る。働き手の意識の変化や人手不足の中で人材確保という観点からも企業のオフィス環境は非常に重要な課題となっている。

テレビ会議にも対応したミーティングラウンジ。

「従業員がオフィススペースをどのように使っているかということをデータで集めて“見える化”すると、本当に必要なスペースがどのくらいか、どういうスペースだと人が集まりやすいのか、生産性が高まりやすいのか、ということもわかるようになります」(貝畑氏)

オフィスはこれまで固定席型が主流を占めてきた。しかし、部署ごとに全従業員の個人デスクが用意されるために、個人の働き方や組織を硬直化させ、人員の増減や組織変更には内装工事などまとまったコストが発生していた。

そうした中で注目されるようになったのが「フリーアドレス型」だ。これは社員が個々に机を持たないオフィススタイルで、自由に席に座ることで、上下関係や異なる部署の交流を深めることが期待された。しかし、ただフリーアドレス型を導入しても、会社や個人の意識が変わらなければ事実上の指定席のような暗黙のルールが生まれ、結局フリーアドレス型は有名無実化してしまうという欠点もある。

そうした中で貝畑氏は今後求められるオフィスのキーワードは、『フレキシビリティー(柔軟性)』『アジリティー(軽快さ)』だという。

「何か問題などがあった場合にフレキシブルに対応できるような組織づくりが求められ、それにあったオフィスが必要になっていると思います。何かあった時に集まれる人が集まり、アジャイルに何かを作り上げていく、そんなことができるスペースが求められているのだと思います。ミーティングルームを予約しなければ議論ができないということではなくて、さっと集まってその場で5分、10分、その場で話をして、『こういう方向でプロジェクトを進めていこう』という方針を決めることができるようなスペースがいくつも、いろいろなタイプで用意されている。これからのオフィス環境のキーワードになっていくのではないかと思います」