人生100年といわれる時代にあって、年金や医療、介護など、将来を考えると不安の種は多い。そんな中でも人生を豊かに、自分らしく過ごしていくために、お金とどう付き合っていけばいいのか。ファイナンシャルプランナーとして働く女性のお金の悩みに応えている八ツ井慶子さんに聞いた。

不安にあおられてはだめ。
お金との付き合い方を見直して、ワクワクできる運用を!

ファイナンシャルプランナー
八ツ井慶子(やついけいこ)さん

Profile
1973年、埼玉県生まれ。CFP。生活マネー相談室代表。個人相談を中心に執筆、講演を行う。著書に『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』(プレジデント社)など。

 

王道が通用しない時代 投資にも選択と集中を

「卵を一つのかごに盛るな」──。資産運用を勉強した人なら、このことわざを聞いたことがある人は多いはず。一つの資産にお金を集中させず、複数に分散させて万一に備えるのは資産運用のセオリーだ。けれど八ツ井慶子さんは「かつてほどの分散効果が期待できなくなっている中での運用は、適切な投資先を見極める目がより必要。“王道”といわれる方法だけに固執せず、時代に合った手法を探していきましょう」と話す。

日本経済は回復しつつあるように見える。しかし「世界全体でみれば低成長時代に移っている」というのが八ツ井さんの実感だ。

「投資の教科書は、経済が右肩上がりの成長を遂げることを前提にしていました。でも多くの国が成熟した社会に到達したことで、昔のような株価の上昇や金利は見込みにくくなっています。環境が変わっているのに『セオリーだから』という理由だけで分散投資を過信するのもよくありません。大切なのは、これから価値をもたらす資産を選び、そこに投資していくことでしょう」

大量生産・大量消費で利益を生むビジネスモデルが後退する一方で、ウェブを利用したスモールビジネスや医療・介護の領域など、可能性を秘めた産業も生まれている。

「低成長時代でも、伸びしろのある領域やアイデアを持った有望企業はあります。収益をもたらす成長分野を探すのが楽しいと思える人、お金を増やす可能性にワクワクできる人は、きっと運用に向いています」と八ツ井さんは話す。

理論と実践を積み重ねて運用スキルを磨く

誰もが最初からリスク管理しながら資産運用ができるわけではない。

「運用はスポーツと似て、理論と実践を繰り返していくことで次第に身につきます。書籍や証券会社のセミナーなどで勉強を重ね、少額から実践してお金がどう動くのかを実感していくといいでしょう。額面が小さいと損得の良しあしも感じにくいので、1万円程度から始めるといいでしょう」

投資信託であれば「セキュリティー」や「ファッション」などテーマを設けたファンドが数多くあるので興味のある分野も見つけやすいだろう。利回りももちろん大事だが、より意識すべきはお金を増やすことよりも、むしろ減らさないことだという。

「例えば100万円の資産を運用して、1年で30%のマイナスになると資産は70万円。そこから1年後に30%のプラスになったとしても、資産は91万円にしかなりません。元どおりの100万円にするには、約43%のパフォーマンスが必要。マイナスを取り戻すのは大変なんです」

少額で時間をかけて積み立て投資すれば、価格を平準化しながら投資できる。株式や債券などのほかに八ツ井さんが注目しているのが金といった現物資産である。

「なかでも金は幅広い方が始めやすい資産だと思います。純金積立や金ETFなどはネットでも購入できます。金市場は中国やインドなどの新興国の需要が強く、金の価値を下支えしています。ビットコインなど見えないお金の台頭で、通貨の価値が揺らいでいるなか、約5000年前から信認されてきた金を保有しておくことは、資産を守る意味合いとして活用できます」

同じ現物でも、不動産にはより慎重さが求められる。品質が保証されている金とは異なり、不動産は立地によって価値が大きく異なる点がポイントとなる。

「不動産投資で得られる収益源は、賃料と売却額の2種類です。売却益は上下する可能性がありますから、運用中に賃料収入がいくら得られるかという利回りが成否を分けます。不動産は文字どおり『動かせない資産』ですから、購入時によく検討していただきたいですね」

日々の消費を見直して運用できる足場を固める

働く女性のお金に関する相談を受けている八ツ井さん。そこで感じているのが老後不安の強さだ。

「まだ若いうちから、今の収入で大丈夫なのか、将来も暮らしていけるのかと不安に思っている人は大勢います。ただし、いくら将来が心配だからといって、余裕資金もないのに運用を始めてしまうのはよいことではありません」と忠告する。

「資産運用には順序があります。まずは、家計を見直して浪費をなくし、貯蓄ができる基盤をつくる。余力ができたところで、将来設計を描いてみる。そこで『未来のために投資をしてみたい』と感じたなら、本格的に運用に踏み出していくとよいです。値動きが怖いなら、無理して運用することはありません」

八ツ井さんがこう話すのは、相談者の中に「気付けばお金がなくなってしまう」という問題を抱えながらも、「投資もしなければ」と考えている人が多いからだ。

「運用でお金を増やしても、浪費癖が直らなければ正しい資産形成にはつながりません。消費とは、その人の心を映す鏡。毎日つい無駄遣いをしていませんか? まずはお金と向き合ってみてください」

人生100年時代といわれる今、長生きをリスクとして心配する人が多いのは事実だ。しかし八ツ井さんは「私自身は、未来への不安よりも楽しみのほうが大きいです」と笑う。

「これから100歳までどう生きようか、そう考えるだけでワクワクします。女性として輝いて生きる助けとして、前向きな資産運用を実践してほしいですね」

Edit=Embody Photograph=皆木優子