高年収な世帯ほどお金への危機感が希薄
出産や子どもの進学、マイホーム購入や親の介護、そして自分自身の働き方の変化……。誰でも一生のうち何度かは「大きなお金が必要なタイミング」が訪れる。けれど、その時を準備万端で迎えられる人は少ない。
「まとまったお金が必要な事態に直面して、初めて貯蓄を見直して戸惑う……相談に訪れるのはこうした方が多いですね。『プレジデント ウーマン』読者のように、現役で働いていたり、仕事と子育てを両立している女性もいますよ」
内村しづ子さんはこう説明する。
働く女性であれば一定の収入があり、管理職に就きプロジェクトの中心となっているマネジャークラスも珍しくない。だからプライベートでも計画的に資金管理ができているかといえば、現実はそう単純でもないようだ。
「働く女性はある程度の収入を得ているため、『お金が足りない』という切迫感はかえって希薄という感じがしますね。むしろ目先のお金があって日々の収支がまわっているからこそ、つい将来に向けた備えが後回しになるのではないでしょうか」
事実、内村さんのもとに相談に訪れた人の中には「年収に対して貯蓄額が少ない」というケースが散見される。世帯年収1000万円を超えているのに、手元の現金は100万円しかない夫婦もいたという。
「いざというときにいくら使えるのかを把握するために、日々の生活で必要なお金と貯蓄は、口座を分けておくのが基本です。夫婦が別の財布で生活していると、なおさら見えにくくなります。会社の財形貯蓄も含めて見える化し、家計でも自動的にお金を積み立てられる仕組みを作っておけば無理がありません」
経験が最大の学びになる。
少額からステップアップを
ただし定期収入がなくなる老後を考えたとき、一定の生活水準を保つのに貯蓄だけでは心細い。そうなれば株式や債券、投資信託、外貨などを活用した資産形成を考えることになるが、未経験の人ほどリスクが心配で二の足を踏んでしまう。
「まじめな女性ほど『勉強してからでないと始められない』と足踏みしてしまいがちですね。もちろん知識も大切ですが、トライして初めて身に付く感覚もあります。まずは少額から始めてみるのがおすすめです。時間や場所が自由なインターネットの金融機関などを利用すれば、自分のペースで投資できますし、積立投資信託は100円から購入できる時代です」
少額から始めれば、投資元本が少ないぶん利益も小さいが、減ったとしても影響は限定的。お金を積み立てながら運用ノウハウを身に付ける機会と考えれば、決して悪い投資ではない。最近は資産運用に関する情報提供を充実させる金融機関も増えている。これらを上手に使って成長していけば、より多様な商品を自らのライフプランに応じて組み入れることもできるだろう。
「働くことには一生懸命なのに、不思議と皆さんその対価であるお金の使い方や増やし方には無頓着ですね。例えば、金利1%と時間が組み合わされば将来には大きな差が生まれます。それを理解していれば、『時間が安定運用の最大の味方』ということがわかってくるはず。不安だから始めないなんて、本当にもったいないことです」
支出の効率化を図ることもポイントだ。
「老後に向けた資金形成でいえば、個人型確定拠出年金『iDeCo』はぜひ検討してほしい方法です。掛け金が所得控除の対象になるため、毎年支払っている所得税と住民税が安くなります(下図参照)。このほかに、運用中の収益は非課税など利点はたくさんあります。投資信託に定期預金などの元本確保型商品を組み合わせれば、掛金全体に対してリスクを抑えた運用ができます」
備えがある安心感が未来の選択を助ける
今は仕事に打ち込む女性が、これからの転機にキャリアを自由に描くためにも「やはり資産をつくっておくことは重要です」と内村さん。
「ずっと走り続けるように働ければいいけれど、仕事に疲れてちょっとお休みしたくなる時期も訪れます。そのまま今の会社に所属し続けることもあれば、会社を辞めて起業など新しい道を探ることもありうるでしょう。そこで備えがあれば、思いきってチャレンジしやすくなります。私自身、かつてはファッション関連の会社で働いていましたが、海外出張中に米国同時多発テロを経験したことで、働き方への考えが変わりました。このまま働くだけの人生でいいんだろうかと。そこで退職して過ごすうちに、お金がなくなる心もとなさも経験し、備えの大切さを実感したんです」
その後内村さんはお金の知識を学び今では独立系ファイナンシャルプランナーとして、自分と同じように子育てをしたり、働く女性の相談に答えている。
「よく、どんな割合で投資したらいいでしょうかという相談を受けますが、人生にも資産運用にも横並びの“正解”はありません。どんな投資スタイルが向いているのかは、その人自身が見つけること。今は参考となる情報発信や相談先なども充実しています。自分自身を知るために、勇気を出して行動を起こしてみてください」
Edit=Embody Photograph=皆木優子