倒産の危機、成長期……。さまざまな場面で経営者たちは文章に思いを込める。受け手が感化される文章は、何が違うのか。カリスマ経営者の側近が証言する。
決算説明会でプレゼンをする孫社長。メモや原稿は見ない。(PANA=写真)

四半期ごとに開かれるソフトバンクの決算説明会には、孫正義社長のプレゼンテーションを目当てに足を運ぶ人も少なくない。

ソフトバンクの社長室長として、孫さんのプレゼンを数多くサポートした経験があるジャパン・フラッグシップ・プロジェクト社長兼CEOの三木雄信さんは説明する。

「会場で映し出されるスライドシートは“背景”にすぎません。主役はあくまで、来場者に語りかける孫さんです」

そこで体得したノウハウは著書『孫正義 奇跡のプレゼン』に詳しい。

孫さんのスライドは、見た瞬間に内容が頭に入る点で際立っている。文字数が極端に少なく、個条書きやもっともらしい概念図は皆無といっていい。

「1シートに1メッセージ。これは鉄則です。しかもグラフや写真を用いて視覚的に訴えかけます。右脳に血流を起こさせ、まず感覚的に理解してもらうことに重きが置かれるのです。いつも、『キャッチが長い』『写真がしょぼいよ』とダメ出しをされていました」

複雑な内容を盛り込めば、シートに目が奪われ、プレゼンを聴く妨げになる。聴衆を意識すれば、シートは当然シンプルさを極めるようになる。

例に示すように、孫さんのスライドには右肩上がり、ナンバーワン・シリーズ、巧みな言い換えなど、いくつもの“決めワザ”がある。

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スライドの例
■孫正義氏のスライド

(1)右肩上がりで勢いを示す
ソフトバンクの決算説明会では、ひたすら右肩上がりのグラフを見せ続けられ、同社が好調なことがイヤというほどわかる。2012年3月期第1四半期のプレゼン資料では、72枚中、25枚がこの「右肩上がりシリーズ」にあたり、なんと35%を占める。

(2)No.1データで優位さを強調
「右肩上がり」と双璧をなすのが「No.1シリーズ」だ。純増契約数No.1や好感度No.1など、あの手この手で自社のNo.1データを提示。同プレゼン資料72枚中、No.1シリーズは13枚である。

(3)右下がりのグラフは使わない
ソフトバンクで、右肩下がりのグラフが許されるのは借金と解約者数などに限られる。同プレゼン資料のなかには3枚しかなかった。

(4)言い換える
「32PBの保存が可能」と言われても、一般人にはわからない。具体的に何ができるのかがわかる表現、数字に置き換える。

(5)長期的な時間軸を示す
このスライドも右肩上がりシリーズの1種。自社や業界が長期にわたって伸びていく将来像をアピールすることに成功している。