報告のための報告書は必要ない。私がそう意識するようになったのは、野村証券の営業マン時代です。毎日、上司へ提出する営業日報を書きながら、こんな疑問を感じていました。営業で大切なのは結果を出すこと。一日の行動を記しただけの報告書に意味があるのか。できる営業マンは顧客リストが刻々と変わる。上司はリストの変化だけをチェックすればいいはずだ――。

<strong>スクウェア・エニックス・ホールディングス社長 和田洋一</strong>●1959年生まれ。84年東大法卒、野村証券入社。主計部など6部署を経て「トレーダー以外はすべて経験した」。2000年にスクウェアに転じ、01年社長就任。08年より現職。
スクウェア・エニックス・ホールディングス社長 和田洋一●1959年生まれ。84年東大法卒、野村証券入社。主計部など6部署を経て「トレーダー以外はすべて経験した」。2000年にスクウェアに転じ、01年社長就任。08年より現職。

そんな経験があるので、いまも単なる報告だけの報告書は書かせません。報告が必要なのは、当初の提案や前提に変更が生じた場合のみ。進捗の気になる案件は、電話や携帯のメールで「あれ、どうなってる?」と直接問い合わせます。報告書では取り繕えても、不意打ちだと都合の悪いことを隠し通すのは難しい。部下のうそを見破るのは上司の義務です。私自身、一切ごまかしが通じない厳しい上司に恵まれたから、いまの自分があると感謝しています。

口頭の報告に便利なのがホワイトボードです。図表やキーワードなどを書きながら説明させると、担当者がその案件をどこまで深く理解しているか、すぐわかります。

それは文書でも同じ。普通の報告書ならば読み手は上司ひとりですが、提案や企画の場合はチーム全員で共有する必要があります。紙の山をつくっても、見てもらえなければ意味がない。共有のためには、「読む」のではなく、「見る」だけで理解可能な文書が求められます。

たとえば、ゲームソフトの完成が予定より遅れるとわかったとき、報告書にまとめさせると、遅延の原因や経緯を書かざるをえません。しかし、緊急事態において必要なことは、責任追及ではなく、素早く手を打つこと。まずは担当者全員を集め、今後の対策を練り、すぐ行動に移す。原因の分析は、その後からでも遅くはありません。

緊急事態に長文の報告書を求めるのは、できない上司の典型でしょう。上司の仕事とは、部下からいかに成果を引き出すか。それなのに、部下の行動を監視して役員に報告することが仕事と思っている。中間管理職の悪癖です。

営業の仕事であれば、数字以上に雄弁なものはありません。上司が数字以外の報告を求めてきたときには、仕事を教えようとしているのだと感謝すべきです。