花王は一風変わった会社で、会議でペーパーを配る習慣がない。会議はもっぱら、スライドをプロジェクターで映しながら進められる。

これは、出席者の意識を一点に集中させるためだ。分厚い資料を配ると出席者が別々のページを読んでしまうため、意識が分散してしまう。参加者全員が意識を集中させて徹底的に議論をすれば、「よしやろう」「これは、ダメ」と、その場で結論を出すことができる。他社によく驚かれる光景だ。

<strong>花王社長 尾﨑元規</strong>●1949年生まれ。72年慶大工卒、花王石鹸(現花王)入社。化粧品事業本部長、ハウスホールド事業本部長などを経て2004年より現職。就任時は8人抜きの抜擢が話題に。
花王社長 尾﨑元規●1949年生まれ。72年慶大工卒、花王石鹸(現花王)入社。化粧品事業本部長、ハウスホールド事業本部長などを経て2004年より現職。就任時は8人抜きの抜擢が話題に。

「即断即決」のためには、提案書は簡潔にまとまっていなければいけない。映し出された瞬間、参加者全員の共通理解を得られるものである必要がある。いくら内容が優れていても、小さな文字で記されていたら、十分に理解できないうちに次のページへ進んでしまう。1項目につき普通は2行、長くて3行。これが限度だ。

そして、訴えたいことは起承転結のあるストーリーとして整理しておく。さまざまな要素を簡潔なことばに凝縮し、それを並べ直すわけだ。

成功する商品は必ずストーリーを持っている。ストーリーに欠損や無理がある場合、その商品は絶対に成功しない。商品の企画や提案に限らず、提案書は、誰かにストーリーを語って聞かせるつもりで書き上げるといいだろう。

弊社の商品に食器用洗剤の「キュキュット」がある。最初、このネーミングを提案されたとき、私はイエスと言わなかった。ブランド名には普遍性と継続性が必要だが、擬音語を使ったネーミングはこの点で問題があると、いささか保守的な判断を下したのだ。

しかし、担当者はこの提案を頑として引き下げなかった。真剣な面持ちで「これしかありません」と言う。最後は、「わかった。おまえに任せよう」とこちらが折れた。思いつきの提案ではなく、商品のストーリーのなかで「これしかない」と考えたからこそ、一歩も引かなかったのだろう。実際、「キュキュット」は大成功した。

提案と名のつくものはすべて、提案者の作品という側面を持つ。いろいろな人の意見を入れると、モザイク模様の提案になって鋭さが欠けてしまう。むろん、理由なく意地を張るのでは困るが、提案者には「社長の意見も突っぱねる」といった確信を持てるまで、提案の中身を掘り下げてもらいたい。