「徹子の部屋」や年初の「笑っていいとも!増刊号」で、タレントのタモリさんが私の著書にある「倍音」の話題を取り上げてくれました。

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整数次倍音

倍音とはある音が鳴ったときに共鳴したり、付随して出てくる音のこと。楽譜上では同じ音でも楽器によって音色が違うのは、含まれる倍音が異なるからです。実はこの倍音は人間の声にも存在し、それが個々の声質を決めているのです。

デビュー当時のタモリさんはイグアナの真似など、どちらかといえば異端の存在でした。それがお茶の間で幅広い人気を得るようになったのは、自身の声の質、つまり倍音の印象と逆の面を表に出してテレビに出るようになったからなのです。

では、タモリさんの声はどのようなタイプなのでしょう。そもそも倍音には大きく、整数次倍音と非整数次倍音の2種類があります。このうち整数次倍音とは2分の1、3分の1、4分の1という整数の波長を持つ音のこと。対して、非整数次倍音の波長は不規則で、ギターの弦をこすったときのギーッという音とか、雨、風の音、虫の鳴き声など自然の音もこれに括られます。

(PANA=写真)

人の声もこの2つに分類することができ、タモリさんの声は前者の整数次倍音。特徴はひと言で言えば“ギラギラ”。硬くハリがあり、御経を読むときの僧侶のような声なのです。

この整数次倍音の声は、聞く人に荘厳さや神々しさ、カリスマ性を感じさせます。デビュー当時のタモリさんは、荘厳なその声が視聴者に距離を感じさせるうえ、芸風もアクが強い。だから、あまり一般受けはしなかったのです。

一方、「笑っていいとも!」の司会を始めてからは、番組上で若手タレントと絡み、友達のように気さくに話をする。親しみやすく身近な存在と映るようになったのです。とはいえ、声には依然カリスマ性がある。どこか神秘的なその2面性が視聴者の心を引きつけ、毎日テレビに出ていても飽きられることがないのです。

「徹子の部屋」の司会者、黒柳徹子さんにも同じことが言えます。彼女の声も整数次倍音が強く、耳にすると背筋を正してしまうような印象があります。それに反して、語り口は軽妙で内容もユニーク。相手の話もよく聞きます。そうした相反する要素が視聴者の興味を引き、長寿番組を支えてきたのです。