トップは最初の一手を置くだけ

コマツ会長 
坂根正弘氏

無難な平均点の商品などいらない、飛びぬけた力を持つ「ダントツ商品」をつくれ――。2001年、コマツ社長に就任した私は、社内にこう号令をかけ、商品力強化に乗り出した。

この年(02年3月期)、コマツは創業以来初の最終赤字に転落する。何が原因なのか。経営の数字を徹底的に「見える化」したところ、海外の競合メーカーと比べて本社部門などの固定費コストが高すぎることが判明した。その一方、変動費である製造コストは常識的なレベルに収まっていた。

ということは、固定費さえ正常化すればライバルと同じ土俵で戦える。そのための武器として、魅力ある商品を揃えようと呼びかけたのだ。ただし、私が求めたのは単なる「よい商品」ではない。他社の開発陣がどんなに頑張っても、3~5年は追いつけないほどの突出した性能を持つ商品である。

それを実現するには何が必要なのか。

まず自分たちの強みと弱みを知る。経営資源に限りがある以上、現実にはすべての機能をダントツにすることはできない。そこで強みとなる部分に磨きをかけて突出した性能を与え、他の部分は平凡な機能でよしとする。

別の言い方をすれば、会社の将来のため重点分野へ大胆に投資する一方、その他の部門には、涙をのんで犠牲になってもらう。私はこの構図を明確に示し、着実に実行することを何よりも優先した。そして、そのときの指針としたのが「合理性」と「誠意」である。

合理性とは、常に組織の全体最適を念頭に置き、意思決定するということだ。本当に必要ならば、雇用調整など犠牲をともなう改革にも踏み込まなければならない。だが、相手は感情を持つ生身の人間である。理性では了解しても感情が納得しないこともあるだろう。その際は誠意を持って訴えていくしかないのだ。

また、とかく組織は世界の本質的な変化を見落とし、近視眼的な部分最適論に陥り、全体最適にブレーキをかけがち。全体最適を追求するには「どこを犠牲にするか」を決めなければならない。これこそトップにしかできない重要な決断となる。