2013年2月12日(火)

なぜカラオケでストレス解消してはいけないのか

「元気に働く」ための全課題

PRESIDENT 2011年1月17日号

著者
植木 理恵 うえき・りえ
心理学者、臨床心理士

植木 理恵1975年、大分県生まれ。日本教育心理学会「城戸奨励賞」「優秀論文賞」受賞。2006年より慶應義塾大学で心理学の講義を行うとともに、臨床心理士として都内病院の心療内科に勤務。

臨床心理士、心理学者 植木理恵 構成=大塚常好 撮影=奥谷 仁
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人格を破壊する“カラオケリスク”

「歌わないの? 遠慮しないで。ハウンド・ドッグの『ff』とかどう」

誰かれかまわず部下をカラオケに誘って、こんな命令をしていませんか? もし、していたら大変危険ですので、やめてください。

忘年会などで一杯飲んで職場の人間とパーッとひと騒ぎ。まま、それはいいでしょう。しかし、心療内科で多くのウツとウツもどきの若い患者たちのカウンセリングをしている私に言わせれば、カラオケは人格を破壊してしまうリスクをはらみます。

「私、カラオケ、苦手なんです」ときっぱり宣言できればいいですが、職場の関係から曖昧な態度しかとれず、しつこく「歌え歌え」と迫られると、そこにいるのさえしんどくなる。

実は、カラオケボックスの狭い個室ではみな無意識に演技をしています。必死にノリのよさを演じるのです。大音量と輝く光の助けも借りて、明るく、ポジティブなキャラを貫き通す。いい年をして、「AKB48よりモー娘。だろ」などとバカ騒ぎ。あるいは、それは現実逃避かもしれません。しかし懸念するのは、とても歌う気分ではないメランコリックな心境であっても、空気が読めないのは人間失格とばかりに場になじもうと頑張ってしまう人が多いことです。本当の自分を封印して、ノリノリ。その乖離が大きいと心は激しく葛藤し、疲弊します。カラオケのような「陽」の空間でのポジティブ・シンキングは心を強くするのではなく、ストレスは増します。

メンタル的な疾患にかかっていなくても、人の気分というものは1日の中でも天気のように変わるものです。元気ハツラツのとき、安らいでリラックスしているとき、ブルーに沈んでいるとき……さまざまです。そこで大事なのは、その時々の気分に同調すること。調子がよくない、気分がすぐれない。そんな日は、無理に元気に振る舞わない。空回りして、妙に周囲から浮いてしまわないように。

何か心に傷を負ったようなケースなら、なおさらです。その傷を少しでも短い時間で癒やしたいとカラオケに行くなどもってのほか。そんなときは、じっくりとその悲しさや辛い感情を深く掘り下げることを患者にすすめることもあります。名付けて、あえて自ら傷に粗塩を塗り込む、塩塗療法。いわば、「攻めのネガティブ・シンキング」です。

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