イグノーベル賞受賞論文の驚愕の中身

「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に贈られるイグノーベル賞。2000年の経営学賞は、伊カターニア大学の研究チームが受賞した。社員をランダムに昇進させたほうが組織は効率化することをシミュレーションで証明したものだ。

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昇進システムと組織効率の関係

シミュレーションはモデルのつくり方次第で結果が変わることを承知していただいたうえで、研究内容を簡単に紹介したい。研究は、標準的な日本企業に似たモデルで行われている。160人の社員がいて、下から81、41、21、11、5、1人という6層のピラミッド型組織を想定。年齢は18歳で働きはじめ、60歳で定年となる。社員の有能度は10段階評価で平均7に設定され、有能度が4を下回ると解雇、空席は下の階層から昇進させて埋める(最下層の空席には新規採用)。

このモデルを平たく言うと、有能だった社員は、出世しても有能だろうという「常識仮説」と、階層が変われば独立した確率で有能度が決まる(ある階層で優秀だからといって、上の階層で優秀かどうかは別の話)という「ピーターの仮説」(ピーターの法則)の2つで、組織効率の変化を検証している。

ピーターの仮説とは、1969年に発表されたもので「階層社会では、すべての人は昇進を重ねても、職務遂行能力はともなわない」と指摘したものだ。たとえば、理科を教えることが上手な先生が、管理職である教頭先生になっても、教頭先生として有能かはわからないということだ。

次に、昇進者の選抜方法として「一番成績のいい社員を昇進させる」「最低の社員を昇進させる」「ランダムに昇進させる」の3つの戦略を設定した。

この2つの仮説と3つの戦略を組み合わせて6通りのシミュレーションを実施(図版参照)。常識仮説の下で、最良社員を選抜した場合は、当然、組織全体の効率は平均と比べてプラスになる。しかし、ピーターの仮説下では、最良社員を選抜していると、組織効率は平均を下回ってマイナスになってしまう。