日米間の焦点となっている日本のTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加を巡り、2月の訪米時に安倍晋三首相が「参加表明しない」見込みであることが安倍氏周辺への取材で明らかになった。

その理由について、安倍氏周辺は「衆院では自公が多数を占めているとはいえ、参院では自公は過半数割れしており、衆参ネジレ解消が安倍政権の最優先課題。今夏の参院選を控え、TPP反対の農協を敵に回すのは得策ではないと首相は判断している」と話している。

TPPについて、安倍首相は1月のマスコミ幹部らとの会合で「参加表明したほうがいいが自民党内の反対が強く、容易ではない」と漏らしており、本来はTPP参加論者だ。

これに対し、自民党の有力支持団体の農協は「TPPに参加すると日本の農業は壊滅する」と強く反対、自民党の個々の議員への働きかけを強めている。「農協は、参院議員を当選させる力はないが、落選させる力は持っている。選挙を前に農協を敵に回すわけにいかない、というのが首相の考えだ」(安倍氏周辺)。

だが領土問題で日本と中国の緊張関係が高まり、日米同盟の強化が求められているときだけに、TPP参加表明「回避」によって米国の機嫌を損ねるのは避けたいところ。前出の周辺によると、安倍氏は「訪米ではオバマ大統領に日本の事情を説明し、理解を求めていく」と話しているというが、米側の理解を得るのは容易ではなさそうだ。

「安倍氏は首相就任後最初の外遊先を米国と決めていたが、米側は日程が合わないとして1月中の安倍訪米を断りました。TPPで目立った進展が期待できないことへの米側の失望が背景にあったと見られています。経済はアベノミクスでプチバブルの様相だが、外交のほうは出端を挫かれた感じ」(全国紙政治部デスク)

1月訪米を断念した首相は、代わりに東南アジア3カ国を歴訪、アジア重視をアピール。ところが外遊初日にアルジェリアでテロ組織が日本人ら外国人を拉致、軍と交戦し多数の犠牲者を出す事件が発生。安倍氏はアルジェリアのセラル首相に電話で「人命最優先」と「軍の攻撃中止」を要請したが無視された。

「前回の首相在任時もインド訪問中にお腹をこわし、その後、首相を辞任している。アジアは安倍氏の鬼門」(外務省関係者)という声も聞こえてくる。

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