2013年1月4日(金)

<突き刺さる「朱筆」>その文書は、上司に決断を迫っているか -ローソン社長 新浪剛史氏

顧客を逃さない、商売が広がる鉄則

PRESIDENT 2010年8月2日号

小山唯史=構成 相澤 正=撮影

結論が曖昧な長文は
努力をアピールしたいだけ

ローソン社長 
新浪剛史 

1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業、三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。2002年より現職。10年より経済同友会副代表幹事。

仕事を進めるうえで手放せない道具が朱色の筆ペンです。手元にきた企画書や報告書に筆ペンで書き込みを加えて、社員に指示を出しています。

独特の色みがありますから、上から書き込んでも元の文章は読めますし、社長の目を通した書類かどうかもすぐに見分けがつく。しかも、筆には筆勢というものがあるので、単に承認印を押すのとは違い、その文書に対する私の感情が、文書の提出者に目に見える形で伝わります。

たとえば承認のサインは、評価の低い順に、「了解」「OK」「Good」「Great」の4つを使い分けています。残念ながら最近は少ないのですが、期待以上の企画であれば、最上の「Great」に「!」マークを2つも3つも加えます。反対に、検討するレベルにも達していないような書類には、紙いっぱいに×印を書き入れて、突き返します。

大筋では問題のない案件でも、疑問を感じた部分や物足りない個所には、どんどん書き込んでいくので、紙全体が真っ赤になることも珍しくありません。「いったい何をするの!?」「誰が責任を持つのか?」「次のアクションを考えろ!」――。ときには、「○○さん、どう思いますか」とも書き込みます。

たとえばファイナンスに関わるような案件であれば、財務担当者の名前を書き、意見を求めるわけです。

実は、社内文書の最下段には、社長のコメントを書く欄があるのですが、私はそんな欄とは関係なく紙全体に書き込むことにしています。アイデアを欄の中に押し込めるのではなく、頭に浮かんだことを思いつくまま、書き込んでいくのです。

朱色の筆ペンでの書き込みは、社長に就任して以来、続けているやり方です。もともと左利きだった私は、矯正のため幼稚園の頃から中学2年まで書道教室に通っていました。そのとき、先生が朱色の墨で生徒たちの字を直していた光景が原点なのかもしれません。また、三菱商事時代の上司の1人が、社員の書類に赤ペンで直しを入れていたのを覚えています。真似をしたわけではないのですが、このやり方に落ち着きました。書字には精神状態があらわれるので、自分を客観視するうえでも、便利な道具だと思います。

毎日処理する文書の量はA4用紙で数十センチの厚みになります。翌日に持ち越さないのがポリシーなので、執務時間には処理しきれず自宅に持ち帰ることもあります。

とにかく量が多いので、「悪い文書」が目に留まるとイライラします。「悪い文書」の第1条件はとにかく長いこと。延々と状況説明が続き、1つ1つの文章もだらだらとしていて、結局何が言いたいのかわからない。こういう文書になるのは、結論が曖昧だからです。書いている本人も、何を伝えるべきか理解できていない。このため、結論ではなく経緯を説明するしかなくなる。自分の努力をアピールしたいという下心さえ透けて見えるのです。

たとえば報告書ならば、こちらが知りたいのは、「○○の件で」「結果は××でした」「なぜならば△△で」「今後の課題と対策は□□です」という4つのポイントなのです。これらが簡潔な文章で端的に書かれていればいい。

企画書や問題解決のための稟議書にしても、「どうしたらいいでしょうか?」といった指示を仰ぐだけの文書は評価できません。必要なのは積極的な意思です。「自分は○○という新規事業を始めたい」とか「この問題について××という形で解決したい」といった形で、具体的な内容と十分なパッションを持って、上司に対し意思決定を迫る。そういう積極的な意思を伴った「お伺い」であれば評価できます。社長になってしばらくは、こうした指示を仰ぐようなタイプの文書が回ってきましたが、指示が浸透したようで、最近では見られなくなりました。

会社組織において最終的なデシジョン・メーキング(意思決定)を下すのは、トップの仕事です。しかし現代社会では、答えが1つしかないような問題はごくわずか。ほとんどの問題は二項対立を抱えています。そこで一方の選択肢を選ぶということは、もう一方の可能性を失うことを意味する。二項対立に悩む経営者に対して、決断を迫る覚悟があるかどうか。ロジックで答えの出せるケースばかりではありません。だからこそ、チャレンジ精神とパッションが求められるのです。

「プレミアムロールケーキ」などのヒット商品を生んだ「驚きの商品開発プロジェクト」も、そうしたパッションから始まりました。弁当では、800円程度の価値のある高品質な商品を500円程度で販売し、好評を得ました。しかし、初めから現在のような形で提案されたわけではありません。最初は、「何か1つ品質のいい材料を使う」という程度でした。そこから、「原材料を直接仕入れられないか」「製造工程を見直せないか」といった議論に繋がっていき、最終的には、「とてもコストに見合わない」といわれていたものが、「驚き」の価格で提供できるようになったのです。

通常の社内文書では、もっぱら朱色を使うことにしていますが、ときには黒色の筆ペンを手にすることもあります。社員、加盟店のオーナー、店舗のアルバイト、株主、顧客といったステークホルダーに、ローソンの基本方針を示す、もしくは突発的なトラブルに対して対策やお詫びを申し上げる、といった場合です。

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