わかっちゃいるけど取りかかれない。その心理的メカニズムを理解すれば、突破口は必ず見える。すぐやる人になるための簡単な仕掛けを紹介する。

締め切り直前にならないとやる気が出ず、いつも周囲に迷惑をかけてしまうが、仕事のやり方を変えられない……。

これはリスクテイカー(危機好き)タイプと呼ばれる、グズの最終形だ。上記5タイプのグズを放置しておくと、最終的にはこのタイプに行きついてしまう。

「デッドラインが近づくと、それだけに注意が向くようになります。仕事のやり方にこだわっていられなくなるので、ある意味、吹っ切れてしまう」(佐々木正悟)

完璧主義者は妥協を迫られ、効率主義者は段取りに凝る暇がなくなり、心配性も人目を気にする場合ではなく、自分探しタイプは迷う余地をなくし、白昼夢タイプは現実を突きつけられる。

「こだわりを捨てた結果、一挙に仕事がはかどってしまうので、一種の快感があります。その味が忘れられなくなると、デッドライン直前まで仕事をやらないことが癖になってしまうのです」(佐々木)

周囲に迷惑をかけない範囲であれば、プラスの面もなくはない。

「締め切り直前に自分を追い込むことで、日頃は出せないパワーを発揮できるという面もあるし、たとえ完璧主義タイプでも、『80点でいいや』と思える、といったメリットもなくはない」(笹氣健治)

だが、個人で仕事をしているならまだしも、組織で仕事をしている場合、やはりこのタイプの存在は迷惑以外の何ものでもない。究極のグズの、処方箋とは?

「グズとは、全体論的にいえば、モチベーションが現実的な行動に結びついていない状態であり、リスクテイカーとはその状態に居直った存在だといえます。モチベーションに依存して仕事を始めようとするのではなく、機械的に仕事を始める仕組みをつくり、習慣にする以外に方法はありません」(佐々木)

佐々木、平本両氏は、デッドラインから逆算して、機械的に仕事を開始する方法を勧める。完成度の高さや外からの評価といった「成果」を考えず、デッドラインだけを意識する。先送りする場合には、再開する日付をはっきりと決めておき、その日がきたらやはり機械的に仕事を始めるのである。

「やり始める日にちを決めて一旦忘れることで、あれもこれもやらねばというモヤモヤした気分が晴れますし、本人は忘れているつもりでも、その日に向けて脳は働いているものです」(平本あきお)

一方、デッドラインのない仕事の場合、鍵になるのは意識の切り替えだ。忙しいビジネスパーソンは複数の、しかも質の異なる仕事を抱えていることが多い。仕事Aから仕事Bに移行するとき、意識の切り替えがうまくできないと、Bが先送りされることになる。

切り替えをスムーズに行うには、AとBの間に、1分でもいいから何も意識しないニュートラルな時間を挟むといい。

「つまり、グズを根本的に治療する処方箋は、執着を手放すことなのです」(笹氣)

難しいようだが、時間がなければ結局は誰もが執着を手放すことになる。できないことではない。

心理学ジャーナリスト 佐々木正悟(ささき・しょうご)
1973年、北海道生まれ。獨協大学、アヴィラ大学心理学科卒。『いつも先送りするあなたがすぐやる人になる50の方法』など、著書多数。ブログ「ライフハック心理学」を主宰している。


メンタルコーチ 平本あきお
(ひらもと・あきお)
1965年、兵庫県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。北京五輪の金メダリスト、石井慧選手などのメンタルコーチ。多数の民間企業、官公庁の研修を行う。著書に『すぐやる!すぐやめる!技術』。

心理カウンセラー 笹氣健治(ささき・けんじ)
1967年、宮城県生まれ。国際基督教大学教養学部卒。人が行き詰まる様々な心理問題の解消をテーマに執筆、講演、セミナーを行う。『なぜあなたはその仕事を先送りしてしまうのか?』など著書多数。
(川本聖哉=撮影)
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