生徒のことを考えていない先生なんて

「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」のひとこま。

大船渡高校3年生の新沼理奈さん。来春からは仙台の専門学校で学ぶ。彼女が体験した同校の進路指導の仕組みを聞く。

「2年生の時から文系理系で分かれちゃって、(進路の選択肢が)狭まるかなっていうのは、ちょっとありますね。3年生の最初の三者面談のときには『どこに進むのか』は、けっこうしっかり決められます。3年生になると、文系も2クラスに分かれて、授業も違ってきて、受ける教科によって『もうこの大学は受験できない』ってなる。わたしの場合は(「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」から)帰って来たら、もう(進路変更の余地は)一切駄目でしたね。わたし自身は、入学当時から保育士の仕事って決めてたので、それ(迷うということ)はなかったですけど」

新沼さん、2年生の時の自分と比べると、進路や職業に対するイメージはずいぶんと具体的になるものですか。

「はい。『TOMODACHI~』に参加して、あっちで働いてる保育士さんと会って、安い値段で留学できるというサイトとかも教えてもらって、留学もいいなって、さらに広がったかんじがあります。あと、今まで同じ学校の3年生と進路の話をしたことがなかったんですけど、『TOMODACHI~』で一緒になった他の県の3年生の人たちとは、ずいぶんその話をしました。それが面白かったです」

さて新沼さん、来年の春からは大船渡を離れて仙台暮らしです。今の時点で楽しみにしていることと、心配なこと、大船渡を離れるに際し、寂しくなるなあと思うことは何かありますか。

「1年目は寮暮らしで、2年目から1人暮らしの予定です。楽しみなことは、知らない人との出合いです。わたしの学校からは誰も志望していないところなので、寮も学校も新しい人たちばかりです。わくわくしています。心配なことは、奨学金返済です。1カ月12万円×12カ月×3年で約400万円借りることになります。お金のことは今から心配です……。寂しくなることは愛犬のことですね。12歳の老犬なので、いつどうなるかわかりません。いつまでも元気に生きていてほしいと願うばかりです。毎日会っていた愛犬に会えなくなることはとても寂しいものです」

最近の犬は長生きですから、きっといいことありますよ。さて、新沼さん。しつこくなりますけれど、最後にもういちど、大船渡高校の進路指導の話を聞かせてください。端から見ていると保守的にも見えるのですが。こちらの問いに、新沼さんはこう話してくれた。

「現実主義なんだと思うんです。ある先生が話してくれたんですけど、その先生は高校時代に第一志望の大学に不合格で、とても苦しい浪人生活を送ったそうなんです。『だからちゃんと勉強して、俺みたいになるなよ』と言ってて。生徒のことを考えていない先生なんていないはず……と、わたしは思ってます。生徒が『○○をやりたいんですけど……』って言ったときに、『一時的な迷いだ。あとで後悔してほしくない。現実を見ろ』——こういうことなのではないでしょうか」

高校生たちが(たとえば「TOMODACHI~」を体験して)発見した仕事。教師たちが「現実的だ」と判断する仕事。そのギャップがこちらには気になり始めている。高校の進路指導の先生は大変だ。たとえば看護師、たとえば普及指導員。高校生から資格や職業の名称を聞くたびに、こちらもそれを調べる。初めて知るものもあれば、知った気になっていただけのものもある。こちらはそれを書けばいいだけだが、先生はそうはいかない。ある日突然、生徒から知らない職名を聞かされ、限られた時間の中で調べ、(何よりもここが大変なのだが)その仕事が、その生徒に合っているかどうかを考える。「『TOMODACHI~』に参加して、UCバークレーで起業家の人に会ってすげえと思って。起業家になりたいです」——もしそう言われたら、東北の高校の先生はどうすればいいのだろう。この「問題」は、最後に登場する高校生のインタビューの最後で、もう一度こちらの前に現れる。