大谷選手の「知らなかった」を本当だと感じた

話を大谷選手の会見に戻す。事件の真相は捜査で明らかになっていくと思うので、誰が黒幕だとか送金は不可能だとかの議論はしない。ただ、ギャンブル依存症患者とその周囲の人々を知る私にとって、大谷選手が話したことはフラッシュバックを引き起こすほどに真実味があった。

直前まで知らなかったということも、ギャンブル依存症の人が自分の状況を徹底的に隠し、嘘を繰り返してしまうことを考えると頷ける。Aさんに限らず、ギャンブル依存症患者には人望が厚く社交的な人が多い。それを考えると、「友達の借金を肩代わり」や「翔平が肩代わりしてくれた」といった発言に多くの人たちが納得してしまうのも理解できる。

そして、大谷選手が状況をほとんど把握できておらず、会見で送金方法に言及しなかったことにも合点がいく。ギャンブル依存症の人は、「金策」のためにあらゆる手段を取る。社会復帰を目指す自助団体が匿名性を重要視していることと、私自身が関係者の尊厳を傷つけたくないために具体的な例は出さないが、普通では考えられない方法をとることもあるのは確かだと言えるだろう。

そして周囲の人たちが疲弊して心を病む理由のひとつに、この「金策」があることに触れておきたい。笑顔の下で、親切の裏で、虎視眈々と自分の金を狙っていたのかと考えるとひどい裏切りにあったと感じてしまうからだ。ギャンブル依存症の人の周りにいる人が、「何よりも嘘をつかれるのが辛い」と口にするのは、こういった経験からきている。

ギャンブル依存症は心の弱さの問題ではない

私たちの日常にはギャンブルが溢れている。街にはパチンコやスロットがあり、週末には競馬や競輪、競艇が開催されている。ギャンブル依存症への落とし穴は至るところで口を開いているのに、その恐ろしさや、治療の難しさはあまり語られず、専門の治療機関も少ない。また、自己責任論が根強い今の日本では、ギャンブルに限らず依存症全般を軽視している傾向がある。

厚生労働省が2021年に実施した依存症に関する調査によると、日本におけるギャンブル依存症の疑いがある人は196万人もいるのだそうだ。コロナ禍でオンラインでのギャンブルが急速に広まったことを考えると、その数はもっと増えているのではないか。196万人の裏に、その人たちを愛し、信頼していた人たちの絶望と涙と金銭的被害があることは見過ごしてはならない。

ギャンブル依存症は個人の心の弱さの問題ではなく、病気だ。にもかかわらず、適切なケアを受けられる場所があまりにも少ない。ここ数年は、格好いいイメージを作ったり、ファミリーフレンドリーな施設を併設する企業努力によって、ギャンブルへの心理的ハードルが下がりつつあることに懸念を抱いている。私は、ギャンブル依存症は社会問題だと声を大にして言いたい。

かつてAさんがこんなことを語っていた。

「ギャンブルは日常のいたるところにある。投げたボールがゴールに入るか入らないか、じゃんけんで勝つか負けるか、コイントスで表が出るか裏が出るかもギャンブルになる。自分の場合は、大学で学んだ統計学を深掘りしたくなったことから始まった」

風のうわさで、Aさんは今もギャンブルをしない努力を続けていると聞いた。私はそんな彼に最大限の敬意を表し、この記事を締めたいと思う。

【関連記事】
笠置シヅ子が信頼した男は大金を使い込んでいた…朝ドラでは美化された絶頂期のマネージャー交代劇の真相
朝ドラでは描かれない江利チエミ45年の壮絶人生…高倉健と結婚するも子を持てず異父姉に夫婦仲を裂かれた
MLB選手が「妻は普通の人」と話すことはない…大谷翔平の結婚報道で元週刊誌編集長が心配すること
「ランチ後のコーヒー」はやめたほうがいい…全米大ヒット本が「カフェインの摂取時間に要注意」と警告する理由
「脳トレはほぼ無意味だった」認知症になっても進行がゆっくりな人が毎日していたこと【2022上半期BEST5】