日銀は追い詰められている

長期金利が上昇すればとんでもない評価損が発生し、短期金利を上げていけばとんでもない損の垂れ流しが始まる。日銀は追いつめられている。

異次元緩和を開始してから、日銀財務の脆弱ぜいじゃく性は日に日に悪化している。改善したり悪くなったりを繰り返しているのなら、まだいい。しかし、一時期たりとも改善したことはなく、解決策を誰も見出していない。

次期総裁選びの際、垂涎の的の総裁職を日銀マン、日銀OBは誰も引き受けなかった。財務省OBの最高の天下り先だった総裁職を、財務省OBも誰も引き受けなかった。内部事情を知れば知るほど尻込みをしてしまったのは当然だ。

なのに植田氏は総裁職を引き受けた。日本金融学会での講演録や、日銀審議委員時代の議事録を読むと、植田氏は明らかに私と同様、日銀の政策に相当の危機感をお持ちだった。日銀審議委員時代は、いわば日銀の党内野党の立場のように思われる。

それが総裁になった途端に、楽観論者に変わったのは「そう言わざるを得ない立場」になったからだろう。それは理解する。私が思うに、植田氏が総裁を引き受けられたのは、市場の動きを甘く見ていたせいだ。

机上の学問通りには事は運ばない。そして植田総裁の最大の問題は総裁職を引き受けたことだと思っている。もし、見識ある人たちが誰も引き受けなければ、その時点で日銀が大問題を抱えていることを日本中が認識し、その解決に英知を傾け(と言っても時すでに遅し、だとは思っているが)、国民は自らが資産防衛に走らねばならないことを認識したはずだ。危機の発生を更に先延ばしにして、起こりうる市場の暴力を極大化してしまった。

「大規模緩和」と書かれたニュースの見出し
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

固定金利の高さは保険料と考えるべきだ

私は本稿で「日銀はインフレが加速しても、もう武器を持っていない」と書いた。それを読んで「短期政策金利を引き上げられないのなら住宅ローンは変動型のままでいいか」と思わないでいただきたい。

本稿で述べた通り、(異次元緩和時期を除いて)政策金利とは市場金利を誘導するためのものだし、実際ワークしていた。しかしながら中央銀行が信用を失えば、市場金利は政策金利を無視し、暴走する。インフレが加速すればいくら日銀が政策金利を低位に抑えていても、市場金利は高騰し、住宅ローンの変動金利も上昇してしまうだろう。

私はその事態を危惧する。変動金利から固定金利への変更は事務手数料程度でできる。現在は固定金利のほうが変動金利よりだいぶ高いかもしれないが、高い分は保険料と考えるべきだと思う。