集中していない時にこそアイデアは湧いてくる

手術というのはやや特殊な例かもしれないが、一般的に何かに集中してその作業に取り組んでいるような時に、新しい着想が生まれたという話はあまり聞かない。作家へのインタビュー記事などでも、作品のイメージは全く別のことをしている時に「浮かんでくる」あるいは「降りてくる」と表現されることが多く、集中力を発揮して「つかみに行く」ということはまれなようだ。一つのことにのめり込みすぎてしまうと、アイデアは湧いてこないようである。

科学技術の概念を持つ抽象的な幾何学的人物
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やるべきことが決まっており、解決すべき問題が存在し、目標がはっきりしていれば、あとは集中してその解決に取り組んでいけばいいだけだ。だがその一方で、やるべきことを決める段階、新しいことを創造する段階では、何かに集中することはマイナス要素となってしまうのである。目の前に問題がなく、自分で問題を見つけてこなくてはならない状況において、集中力を発揮して、すなわち脳の一部だけを使って「自分が解決すべき問題は何だろう?」と繰り返し問うても、何も発想は得られないだろう。

むしろ、集中から解放されて一息ついた時こそ、現状打開につながるような方針が見えてきたり、創造につながるような直観が働くのである。この直観がいつ生まれてくるかと言えば、「脳を広く使えた時」であり、無意識の中の記憶どうしが予想外のつながりをした時なのである。

脳を「広く使う」にはどうすればいいか

では一体、どうすれば脳を広く使うことができるのか? そのためには、ここまで説明してきたように「集中しないこと」が重要になる。集中している時は、それに関わる脳部位だけをまさに「集中的に」使っており、効率的に脳を広く使うことを妨げてしまうからだ。

また、一つ注意しておいてほしいのは、最も顕著に集中をもたらすものは、恐怖や怒り、不安といった「ネガティブな情動」であるという点だ。これらは、側頭葉の深部にある「扁桃体」という部位で生まれる。

恐怖をもたらす状況は、場合によっては命にかかわるような危険を伴う可能性があるため、扁桃体は過剰に反応して警報を鳴らすことになる。我々は、その状況と戦うのか、逃げるのかを即座に判断して行動に移すことが必要だ。あるいは不安をもたらす対象が頭から離れなくなってしまう。つまり、脳はネガティブな情動において、その対象に対して「集中」した状態となり、他の部位は抑制されてしまう。こういった状況では直観は生まれてこない。