現場努力だけでは「ヒューマンエラー」を防げない

政府はマイナンバーカードの普及に躍起になっており、最大2万円分のポイントの付与などで作成を呼びかけた。その結果、7月2日現在では累計9737万枚と人口の77.3%が取得するまでに広がっている。今年1月末に60.1%だったものがポイントの付与をきっかけに一気に高まったが、これが逆に窓口の業務を爆発的に増やし、ヒューマンエラーを助長した面もある。

それでもIT(情報技術)の専門家からすれば、数百件のシステムエラーがあったとしても、1億枚近くある母数を考えれば、わずかな比率だということになるのだろう。7月2日のNHKの日曜討論には河野大臣が出演、「マイナカード問題 どう対応?」というタイトルで放送されたが、討論というよりも問題沈静化を図るための国民への説明という感じだった。

見出しに踊る「マイナ」の文字
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出演者が個人認証制に肯定的な専門家だったということもある。さすがに、「役所もミスをするという認識を国民が持つ必要がある」というシンクタンク研究員の発言には、現場でシステム作りを担っている埼玉県戸田市役所の大山水帆デジタル戦略室長が「役所では絶対間違いが起きないような仕組みにしなければいけない」と嗜めていた。もっとも、各自治体でデジタル化に取り組める人材が圧倒的に足りない実態なども強調。現場の努力だけではヒューマンエラーの再発が防げない危機感を示していた。

デジタル化しても「仕事の仕組み」が変わっていない

なぜ、こんなにデータの紐付けでトラブルが起きるのか。それは単なる「ヒューマンエラー」なのかというとそうではない。DXというのはデジタルトランスフォーメーションの略で、デジタル化と共に、それまでの仕事の仕組みを変えていくことを示している。デジタル化すれば仕事が変わる、というのではなく、仕事のやり方や流れをデジタル化できるように変えていくということが重要になる。この「X」(トランスフォーメーション)ができていないことが日本のDX化が進まない最大の原因なのだ。

例えば、マイナンバーカードに別人の公金受取口座が紐付けられてしまった最大の理由は、銀行口座の「氏名」が「カタカナ」になっていることだ。一方、マイナンバーに登録されている氏名は「漢字」のみ。カタカナの読みが入っていないので、システムで自動的に名寄せをすることができない。データの大本になる戸籍にはそもそも読み仮名がないのだ。住民基本台帳にはカタカナの読みを入れている市町村もあるが、検索する便宜上のもので、その読みが本当に正しいかどうかを示したものではない。つまり、銀行口座のカタカナ氏名と住民基本台帳の読みが一致するとも限らないのだ。