政敵を攻撃するためならロシアにも協力を呼びかける

ロシアによるウクライナ全面侵攻開始から約1カ月後の2022年3月、トランプ氏はインタビューの中で、バイデン米大統領の家族にとって不利になるあらゆる情報を公表するようプーチン大統領に呼び掛けた。アメリカが敵視する侵略国に対して、自分の個人的怨恨を晴らす材料を提示することを求めるという前代未聞の行動であった。

トランプ氏は、その後、「自身が大統領であれば戦争は起こらなかった」との認識を示しながら、自身が大統領なら「1日で戦争を終わらせるだろう」と述べることになる。バイデン氏との個人的確執を念頭に置きながら、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の双方との取引を構想していることは間違いない。

2019年当時、ゼレンスキー政権関係者は、トランプ氏とバイデン氏の双方に配慮する形で、双方にとって不利になる疑惑のそれぞれの存在を否定していた。しかしもしゼレンスキー大統領側が完全にトランプ大統領に親和的であったら、権力乱用疑惑の根拠となる情報も出てくることはなかったはずだ、とトランプ氏が考えているとしても、奇異ではない。“ウクライナ向けの軍事支援の停止をほのめかしていたトランプ大統領にゼレンスキー大統領が不快感を抱き、権力乱用疑惑を喚起する情報をメディアにリークした”、そのようにトランプ大統領が考えているとしても、不思議はない。

また、対ロシア関係で考えても、“バイデン氏が2021年に大統領に就任してウクライナに甘い顔をし続けたことが、かえってプーチン大統領を刺激して、22年のロシアによる全面侵攻の伏線になった”、そのようにトランプ氏が推論している可能性もある。

トランプ第2期政権が発足した際には、2019年の疑惑と弾劾裁判にまつわる個人的怨恨の観点から、ロシア・ウクライナ戦争の終結に対する働きかけが行われることは、ほぼ間違いないと言ってよいと思われる。