遺品を勝手に処分できない

そもそも一般の方々には知られていないのですが、賃貸借契約は財産権なので、契約を結んだ賃借人が亡くなった場合、その相続人に相続されます。

賃借権だけでなく、部屋の中の物もすべて相続人の財産となります。ところが荷物を全部撤去してから亡くなる賃借人はいません。家主側は勝手に他人の物を撤去できないので、荷物は相続人に片づけてもらうか、処分の同意を得ることが必要になります。

たとえば身寄りのない単身高齢者が亡くなった場合、家主側はまず相続人を探して、その方と賃貸借契約を解除して部屋を片づけ終わらないと別の入居者に貸すことができません。ましてや相続人が複数になる場合、法律上は相続人全員と解約手続きをしていくことが求められています。

しかし、個人情報の保護が叫ばれる現代では、利害関係者であったとしても相続人を探して連絡を取るのは非常に難しいことです。それなのに、民間の家主が相続人を探さなければならないとなると、これは大変な負担です。

ようやく相続人を確定できたと思っても安心はできません。相続人が行方不明の場合があるからです。行方不明だからといって、手続きがすぐに終わるわけではありません。この場合には、不在者財産管理人を選任して、その管理人と手続きしていくことになってしまいます。

うなだれる高齢男性
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ようやく相続人を見つけても…

また、ようやく見つかった相続人が、相続放棄してしまうことも多々あります。相続人側からすると、協力したいけれどできないといったところでしょうか。残念ながら善意で賃貸借契約の解約や荷物の処分をすると、その法律行為は、財産をいったん相続したものとみなされ、その後に相続放棄したくてもできなくなってしまうからなのです。

そもそも賃借人が亡くなったことを知らず、家主側から連絡を受けるような場合や、賃借人が亡くなったことを知っても知らぬ顔をしている場合は、賃借人との関係が希薄なのでしょう。そうなると亡くなった賃借人が多額の借金や家賃の滞納をしていても、知らない可能性があります。後から相続人のところに借金取りが来ても困ってしまうため、保身を考えて相続放棄をしたいと考える人が多いのも致し方ありません。

ところが相続人が相続放棄したからと言って、不在者財産管理人のときと同じで、このまま終われるわけではありません。

相続人が相続放棄してしまい、次順位の相続人も相続放棄して、相続人が誰もいなくなった場合には、民法上は相続財産清算人を選任申し立てし、その清算人と手続きを取っていくことになります。すべての手続きが終わるまで、少なくとも1年以上はかかってしまいますが、家主側は当然、その間の賃料報酬を得ることができません。