入院に至らなかった場合は「7700円を徴収」

「いよいよ日本も救急車有料化になるのか?」

三重県松阪市のニュースとしてネットやテレビで報じられた「救急車“有料化”入院なしなら7700円」というタイトルを見て、そう思ってしまった人も少なくないのではないだろうか。

市街地を走る救急車
写真=iStock.com/gyro
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恥ずかしながら、かく言う私もそのひとり。ただ言い訳をさせてもらうと、これはタイトルが悪い。いや、タイトルだけではない。記事によっては中身も正確とは言えないものもあるから、反射的に誤解してしまう人がいても不思議ではない。

例えばNHK NEWS WEBの「入院に至らない救急搬送 6月から7700円徴収へ 三重 松阪」という記事。この記事には「市は、(中略)救急搬送されても入院に至らなかった場合、1人当たり7700円を、ことし6月1日から徴収することを決めました」とあるので、やはり松阪市が救急車有料化を日本全国に先駆けて開始したように読めてしまう。

救急車有料化の是非については、もうずいぶん前から議論されてきていたし、おもに在宅医療に従事している私は、状態が急変しやすい高齢患者さんを数多く受け持っていることもあって、以前から大いに関心を持っていた。

そこに今回のニュースである。ネットで可能な範囲で、どのような決定なのか検索を続けた。すると、じっさいは「救急車有料化」とは事情が異なっていることがわかったのだ。

そこで本稿では、今回の松阪市の決定がどのようなものなのかをまず解説し、問題点を抽出するとともに、今後「救急車有料化」が現実のものとなった場合に起きうることを思考実験してみたいと思う。

市ではなく、医療機関が診察費に上乗せする

まず今回の松阪市の方針を確認しておこう。

医療関連記事を配信している朝日新聞アピタル「救急車呼んだが入院は不要→7700円を徴収へ 三重・松阪の3病院」の記事では、松阪市内には、救急医療を担う基幹病院として、済生会松阪総合病院(朝日町一区)、松阪中央総合病院(川井町)、松阪市民病院(殿町)の3つがあり、6月1日からは、この3病院に救急搬送された人のうち、入院に至らなかった軽症の患者さんから保険適用外の選定療養費として1人(件)につき7700円が徴収されるとしている。

念のため、松阪市健康福祉部健康づくり課に問い合わせたところ、事実だと確認できた。一部の報道では、この7700円は、救急要請した人にたいして、あたかも市が請求するもののように記事が書かれているが、じっさいは、3病院のいずれかの医療機関が選定療養費として徴収するものだったのである。

これはどういうことなのか。それにはまずこの「選定療養費」について説明しておく必要がある。

詳細をお知りになりたい方は拙著『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)を参照いただきたいが、簡単にいうと、これは地域医療を支える200床以上の大きな病院を、かかりつけ医療機関等の紹介状がなく受診した際に、通常の保険診療の自己負担分に上乗せして医療機関が請求する保険外費用(自費)のことである。