もっと若者にチャンスを与えるべき

【パックン】「長く生きているほうが資産は貯まる」のは正当な制度の結果だと思うんですよ。15歳が60歳よりお金を持っているようになったら、逆に反乱が起きるでしょ。ただ、若者にはチャンスを与えるべきだと思います。若い人は働いてお金を稼げばいいし、何か足りなければ教育を受ければいい。その機会をたくさん与えて、労働市場を流動化させたり、能力を伸ばす可能性を増やし、起業できる環境を整えることがすごく大事です。資産はお年寄りに集まって当然ですけど、チャンスは若者に集まってほしいです。

【エミン】モノの価格がどんどん上がってインフレが起きているわけでしょ。それは全世界共通です。そして、不動産価格が上がって若者にはマイホームが夢になってしまう。「若い人は車に乗らない」と言われているけど、お金がない面が大きいと思う。

さらに学費が上がっているでしょ。多くの学生が奨学金を借りて、就職してから返済することになる。この人たちの返済が終わって、いつ家族をつくれるようになるのかを考えると、子どもが増えるわけがない。

【パックン】その通り。

【エミン】すべての根っこにあるのは、金融緩和のし過ぎで、お金を目減りさせすぎている。

【パックン】お金の価値が下がっているね。

【エミン】日本はどんどん借金を増やしているけど、生産的なことをやっていない。現状維持しようとして、働いている層の負担をどんどん重くしている。

大都市圏の若い世代はマイホームが買えなくなった

【パックン】勘違いしてほしくないけど、僕は若者にチャンスと収入を与えてほしい。若者が稼げるようにしてほしい。教育を受けられるようにしてほしいし、子育てできるようにしてほしい。マイホームがあって、しっかり仕事ができて、家族が持てるくらいの収入は与えるべきですよ。緩和し過ぎて格差が拡大した面もあるかもしれないけど、3、40年前もお金持ちにお金が集中していたのは同じでしょ。

【エミン】もちろんそうです。全体的に見ると、100年前と比べて格差自体は減っている。しかし、いまの若い人の親世代は、兄弟姉妹がたくさんいてもみんな元気に育って、ほとんど借金せずに大学に通えた。にもかかわらず、若い世代は子どもを1人育てるのもけっこう大変で不動産を持っていない。

大都市圏に住んでいたら、今後も不動産を買える見込みはない。20年前、30年前より、スタート地点がすごく後ろになってきている。

【パックン】晩婚化も進んでいるし。

【エミン】そう。これは日本だけではなく全世界、アメリカでもトルコでも同じことが起きている。昔の人は借金もなく大学を卒業して、結婚してローンを組んですぐに家を買って、子どもを3人、4人育てて、全員を学校に行かせても自分がリタイアする頃には、そこそこお金が貯まっていた。いまの人はそうした道を描けない。

【パックン】その代わりに昔のお父さんは週7日、毎日10時間以上働いていたり、女性は専業主婦以外に選択肢がなかったりして、マイナス面もあったと思うけど。

【エミン】もちろん。昔が良かったという話ではなく、格差や若者の苦悩の面でいうと、全世界共通している面がある。もう1つはサプライサイド経済(供給側に着目した経済政策)をやり過ぎたという面もある。つまり、トリクルダウン理論(※)が80年代から全世界的に浸透していった。

トリクルダウン理論 富裕層がさらにお金持ちになると、経済活動が活発化して低所得層にも利益が再分配されるとの経済理論。