「認知症になったら何もかもおしまい」ではない

認知症と診断されると本人も家族もひどくショックを受けます。「認知症になったらおしまい」というイメージが強烈に刷り込まれているからでしょう。ですが認知症になったからといって、すぐに何もかもがわからなくなるわけではありません。

たとえばロナルド・レーガン元米国大統領は、退任から5年後に自身がアルツハイマー型認知症であると公表しましたが、その時の重い症状を見た限りでは、在任中からすでに軽度の認知症であったと考えられます。言い換えれば、初期段階の認知症ならアメリカ大統領も務まるということです。

「認知症であるという事実は、あなたのほんの一部でしかありません。散歩したり出かけたり、とにかくその日一日を楽しみましょう」

これは46歳で認知症と診断され、それ以来約30年にもわたって認知症の啓発活動を行ってきたオーストラリアのクリスティーン・ブライデンさんの言葉です。彼女は認知症を「数ある病気の一つにすぎない」と断言します。

一人暮らしは認知症の最高の予防法のひとつ

認知症予防の最高の方法の一つに一人暮らしがあります。

私もこれまでに一人暮らしの認知症の患者さんをたくさん診てきました。

「認知症で一人暮らしなどできないだろう」と思う人も多いでしょうが、不思議なことに認知症になった人は生きるための防御反応が高まります。きっと「食事を確保しなければ死ぬ」ということを脳が認識しているのでしょう。かなり重い認知症の人でも一人で買い物に行きますし、お腹が空けば料理もつくります。

まな板の上の人参を切る高齢男性の手
写真=iStock.com/fotostorm
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「買い物をするにも計算ができないだろう」と思うかもしれませんが、認知症の人にも「計算を間違ったら恥ずかしいし、店員からとがめられるのが怖い」という意識があるようで、買い物の時にはとりあえずお札を出すようになります。すべてお札で買い物するようになるので財布は小銭だらけになりますが、それでも買い物自体はできるのです。自動車の運転も問題なくできる認知症の人はたくさんいます。