2012年11月19日(月)

粘着テープ用途革新で20億、なぜ独り勝ちできたか

PRESIDENT 2012年10月15日号

著者
小川 進 おがわ・すすむ
神戸大学大学院経営学研究科 教授

小川 進

1964年、兵庫県生まれ。神戸大学経営学部卒業、同大学大学院経営学研究科博士課程前期修了。神戸大学経営学部助手、助教授を経て、マサチューセッツ工科大学にて経営学博士取得。帰国後、神戸大学経営学部にて商学博士を取得し2003年より教授。著書に『イノベーションの発生論理』『競争的共創論』などがある。

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神戸大学大学院経営学研究科教授 小川 進=文 平良 徹=図版作成 カモ井加工紙=写真提供
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消費者イノベーションを自社のアイデア源に加えるには、荒削りな試作品のなかに一般消費者のニーズの先取りを見出す洞察力が必要である。マスキングテープの事例から、それを解き明かす。

MITの学生が開発した未来の車とは

企業が消費者イノベーションのアイデアを採用しない理由の1つはそれが企業から見てオモチャに見えることだ、と本連載で指摘した。消費者が作ったものはものづくりのプロから見て粗ばかり目につき、とても製品化を真剣に考える気にはなれないのだと。

実際、こういうことがあった。大手自動車部品メーカーの人たちにYouTubeでMITの学生が自分で作った乗り物を乗り回している動画を見てもらった(興味のある方はlolriokart:dancing in the rainというタイトルの動画を見ていただきたい)。学生が画像の中で乗り回している乗り物はスーパーのショッピングカートに操縦用のハンドルと簡単なエンジンを取り付けたものだ。動画を見た人たちはニコニコ笑っていた。

「この自動車どう思いますか?」と質問してみたところ、そこにいる人たちの頭の上には「自動車?」という文字が浮かんでいるようだった。「実はこの車は都会の駐車スペース節約のアイデアを提供してるんです」と説明してもまだ要領をえない表情だ。

察しのよい読者の皆さんは気づいておられるだろう。スーパーで利用し終わったカートはコンパクトに変形でき次の利用者用に縦に並べられている場合が多い。この「できるだけ多くのカートを並べられるように変形できる」のがカートのよいところだ。MITの学生が作ったカート車はその長所を生かしたものだ。そこに、自動車の車体を変形させ狭い場所でも縦列駐車できる車の未来を感じ取ることができるのだ。実際、MITのメディア・ラボはこうした発想を持ったスマート・カーをスペインの自動車メーカーと開発している。消費者イノベーションを自社のアイデア源に加えるには消費者が作った荒削りな試作品の中に一般消費者のニーズの先取りを見出す洞察力が必要だ。

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