老舗料理店の創業者も認めた調味料

1969年、月刊誌『暮しの手帖』で、湯木氏は「吉兆つれづればなし」という連載を開始した。この連載は好評を博し、1988年まで約20年間も続いた。この連載をもとに『吉兆味ばなし』として4冊の単行本が出版されている。今では古本でしか購入できないが、第1巻だけは『新版 吉兆味ばなし』として復刊された。その中に、うま味調味料について興味深い記述があるのだ。

「『家庭料理の向上を目指し、和食のコツをプロが教える』が連載の主目的の1つでした。湯木氏は連載で多くのレシピを紹介していますが、その大半はうま味調味料について何も言及していません。ところが卵、豆腐、そして酢の物のレシピでは、うま味調味料を『少し入れる』などと指示しています。効果について言及しているのは卵と酢の物で、うま味調味料と『卵は非常にあう』、酢の物は『ほんの少しで、大変きく』との記述があります」(グルメ誌ライター)

プロはこの記述についてどうみるのか。大手製粉会社で数々の商品開発やレシピ考案に携わってきた、料理研究家の道添明子氏はこう話す。

「非常に理にかなっていると思います。卵、豆腐、酢は好きな人にとってはとても美味しい食材や調味料ですが、『卵臭さ』、『豆腐の豆臭さ』、『酢のツンとした感じ』を苦手にする人も少なくありません。うま味調味料を効果的に使うと、食材がもともと持っているコクや風味をひきたてた味わいが楽しめるばかりか、うま味が追加されるので、非常にまろやかな味に整うのです。卵なら、茶碗蒸しや炒飯、卵かけご飯にうま味調味料を使うのは効果的でしょう。例えば茶碗蒸しでは、吟味した昆布、かつお節、そして干しシイタケの戻し汁で取れば、3大うま味成分が全て入り、料亭の出汁になりますよね。ですが家庭では、手軽に手に入る出汁素材を使いますが、そこに、うま味調味料を適量加えてみて。昆布に代表されるグルタミン酸に、魚や肉のイノシン酸、または干ししいたけのグアニル酸を合わせることで、うま味の相乗効果により、おいしくなることをぜひ知ってほしいです。家庭でもプロ顔負けの力強いだしになります」(道添氏)