100歳まで生きられても、目の寿命はせいぜい70年まで

失明と聞いても、自分には遠い問題と感じる人もいるかもしれませんが、人生100年時代となった今、人生の途中で「本来は寿命60~70年」の目が光を失う可能性は「誰にでも起こり得ること」と言えます。

日本で、身体障害者手帳の発行数から推定されている「視覚障害の原因となった眼病」はどれも身近な病気です。

近年の日本人の失明原因の1位は緑内障、2位は糖尿病性網膜症で、3位が網膜色素変性症、4位は加齢黄斑変性、5位が網膜脈絡膜萎縮という結果になっています(ただしこれは、身体障害者で失明による視覚障害者申請をされた方の統計であり、実際の失明者の数の順番とは言えません)。

そして、もっともよく知られている眼病、白内障で失明することもないわけではありませんから、身近な問題と言えるでしょう。

ノートパソコンの上に置かれた眼鏡
写真=iStock.com/peshkov
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また、4位の加齢黄斑変性は、世界的に見れば先進国の失明原因の第1位で、アメリカでは1400万人の患者がいるとされていますから、人口比で言えば日本でも500万人ほどの患者さんがいるはずです。世界基準で見ると日本での加齢黄斑変性の診断基準は誤っていて、日本独自の基準によって正確な診断が行われにくいことが、この病気が失明原因の4位となっている原因です。

愛を込めたまなざしは、みなさんの大切な人に、ときに言葉では伝えきれない思いを語るでしょう。できることならそうした瞳の強さ、そして見るチカラを失わないで生き抜きたいものです。現代では少しの努力や工夫、病気になったときの適切な対処で、その願いをかなえることは不可能ではありません。

認知症と思われた80代の患者が視力を取り戻すと…

近年、認知症が話題になることが増えました。長寿社会では当然、多くの人が関心をもつ話題です。

認知症の原因疾患に、最近、高価な新薬開発が注目されたアルツハイマー病があります。

アルツハイマー病によって脳萎縮が起きて、アルツハイマー型認知症を引き起こしていくのです。その細かいメカニズムは他書にゆずるとして、脳萎縮以外にも、認知症の大きな原因となること、それが視力障害です。

白内障手術患者は高齢者が多いのですが、家族から認知症だと思われている方が多くいます。

ある80代後半の女性は、診察時にまったく話さず、50代の娘さんが代弁していました。診察後、娘さんは「母は認知が入っていまして……」とそっと私に耳打ちしました。患者さんには白内障と緑内障があり、視力も0.1しかありませんでした。

その後、私が白内障手術を行って、患者さんは裸眼で1.0の視力を取り戻しました。多焦点レンズ(すべての距離の焦点に合うレンズ)を移植したので、すべての距離が裸眼でよく見えます。するとどうでしょう。寡黙だと思っていた患者さんが、次の診察時から饒舌に話すようになったのです。