自転車もろとも約40メートルはね飛ばす

翌午前0時45分頃、ディスコを出た男は近くの店をのぞくなどしていたが、今度は小牧市内のナイトバーへ行くため、午前3時半頃、再び車を運転して走り始めた。

信号待ちで停止していた乗用車に追突する事故を起こしたのは、その途中のことだった。

無免許、しかも飲酒運転で警察に捕まるのが怖くなった男は、そのまま現場から逃走。追跡を免れるため、国道からわき道にそれ、前照灯を消したまま一方通行を逆走。そして、午前3時49分、清水3丁目交差点で、今度は自転車に乗って横断歩道を横断中だった貴仁さんに衝突したのだ。

愛知県警が作成した現場見取り図によると、貴仁さんは自転車もろとも約40メートルはね飛ばされ、道路に投げ出された。しかし、男は大量の血を流して倒れていた貴仁さんを救護するどころか、車から降りることもせず、クモの巣状に割れたフロントガラスの隙間から前をのぞくようにしながらアクセルを踏み込んで、民家の塀に車をぶつけ、タイヤをバーストさせた状態でさらに逃走を続けた。

目撃者の証言によると、男が運転する乗用車が現場付近の一方通行に侵入した際、時速100キロ程度だったという。

眞野貴仁さんが乗っていた自転車。乗用車に衝突され、大きく変形している
写真=遺族提供
眞野貴仁さんが乗っていた自転車。乗用車に衝突され、大きく変形している

警戒中の警察官によって確保されたのは、それから約1時間半後の午前5時半頃だった。

このときの所持金は7000円。

「これが全財産だ」

そう供述していたという。

貴仁さんは友達の待つカラオケ店に向かっていたが、たどり着くことはできなかった。

名古屋地検は「過失運転」で起訴した

事故から約2カ月後、名古屋地検は加害者の男を道路交通法違反、自動車運転過失致死、自動車運転過失傷害被告事件の被告人として正式起訴した。公訴事実には以下の事実が列挙されていた。

(1)無免許で、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、無車検、自賠責契約が締結されていない普通乗用自動車を運転して運行の用に供した。

(2)前方を注視し、道路状況に応じて徐行するなど進路の安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約50ないし60キロメートルで進行した過失により、自転車を運転して進行してきた眞野貴仁(当時19歳)の自転車に衝突させて同自転車もろとも同人を路上に転倒させるなどし、前頭部打撲に基づく広範囲脳挫傷により死亡させた。

(3)自己の運転に起因して人に傷害を負わせたのに、直ちに車両の運転を停止して同人を救護する等必要な措置を講じず、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。

「公訴事実」の中に、これだけ悪質運転の事実が列挙されているのに、なぜ、『危険運転致死傷罪』が適用されないのか。これが危険運転でないなら、どんな運転を「危険運転」というのか。