「年齢の割には仕事ができない」と思われてしまう

――こうした学歴偏重主義の親にはどんな特徴があるのでしょうか。

高学歴になったあとのことをなにも考えていない、という共通点があります。学歴偏重主義の親には必ず「学歴を手に入れた後はどうするんですか」と聞くのですが、答えに詰まってしまうんですよ。確かに学歴は今でも武器の一つにはなりますが、だからと言って、成功を約束されるわけではありません。重要なのは、学歴をどう武器にするかだと思います。そのことを全く考えてないんです。

――実際に高学歴難民を支援していくなかで、「中年男性の高学歴難民は前科者よりも就職するのが難しい」と感じたそうですが、その理由を教えてください。

高学歴難民が大学院で学ぶことのほとんどは、研究以外の分野でそのまま生かすのが難しいものばかりです。そのうえ、一般的な社会人経験はないので、事務処理能力が低い人が多い印象です。高学歴難民は30代以上であることがほとんどなので、「年齢の割には仕事ができない」と思われてしまうことが少なくありません。

それでも、「僕は35歳の社会人1年生です。失礼なことをしてしまうかもしれませんが学ばせてください」と言えればいいんですが、それができないんです。何歳になっても、教えを乞う姿勢でいたら周囲の方が教えてくれると思うのですが、「大学院で学んできたから、自分たちは十分に学んだ」と思ってしまうのでしょう。

これが20歳くらいの方だったら、若気の至りとして寛容に対応できるのかもしれませんが、40歳前後で同じことをされると、受け入れる職場側としては厳しいものがあります。

公園のベンチに座って頭を抱えるビジネスマン
写真=iStock.com/itakayuki
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ゼロからのスタートラインに立てるかどうか

――懲役刑などを受けた「前科者」のほうが、ゼロからのスタートという感覚を持ちやすいということですね。

前科のある人は周りに迷惑をかけているという意識が強くありますし、被害者に弁償しなくてはならないという現実的な問題もあって、働くことへのモチベーションが高い傾向があります。働ける場所がある、ということへの感謝が厚い印象があります。また、刑務所で規則正しい生活をしてきているので、遅刻せずに行動する癖がついているのも評価してもらえるでしょう。

一方で、高学歴難民では、協力的な企業が仕事を用意してくれても、その厚意をないがしろにしてしまうケースが少なくありません。自分が積み重ねた学位や研究をチャラにしたうえで、会社のやり方に合わせて働くというのは簡単ではありません。時間とお金をかけてひとつのことを学んできた、という自負も邪魔するでしょう。

ゼロから頑張らなければいけないという点では、前科のある人も、高学歴難民も同じです。ただ、そのことを理解できていない高学歴難民を私はたくさん見てきました。