「タバコ部屋」とは何が違うのか

ところで「社長のおごり自販機」の開発・展開当初は、同社からこんな話も聞いた。

「かつては『タバコ部屋』(喫煙ルーム)が職場の情報交換の場だったように、ちょっとしたおしゃべりの場になれないか、とも思いました。実際に、この自販機の導入先からは『近未来のタバコ部屋だね』という、うれしい言葉もいただきました」

喫煙率の低下や受動喫煙防止法、改正健康増進法の施行などで姿を消したが、以前は多くの職場に「タバコ部屋」があった。中には、一度行くとなかなか帰ってこない人、部屋のぬしみたいな人もいた。タバコ部屋とおごり自販機のコミュニケーションは何が違うのか?

「最も大きいのは、終わりの時間が読めることで、タバコ部屋=喫煙者のように利用者を限定しません。誘う側・誘われる側双方に負担が少ないという効果もあります」(松本さん)

今回サントリーは、おごり自販機を通じた「雑談が生まれやすくなる条件」も調査している。会話やコミュニケーションを題材にした著書も多い、言語学者で上智大の清水崇文教授に監修してもらった。

それによれば、

①終わり時間がよめる
②ながら・ついで
③共同作業
④目の前にある共通の話題
⑤距離感

の5条件だったという。

補足すると、①心地良いのは「約3分」で負担に感じるのは「10分以上」。②は雑談を目的としない、飲み物を取りに行くついで。③は一緒に同じ行動をすることで心理的距離も縮まる。④は飲み物という共通の話題。⑤は横並びで生まれるリラックス効果、がわかった。

挨拶以上、食事未満

今から20年以上前、ビジネス現場では「まじめな雑談」という言葉がはやった。ベストセラー『なぜ会社は変われないのか』(日経BP)の著者である柴田昌治さん(スコラ・コンサルト創業者)が提唱した言葉で、「真意を伝える」「新しく知恵を生み出す」という意味もあった。

筆者が勤務していた花王でも、当時の社長が「権限は委譲します。そのかわり責任も伴います」「でも、みなさんには自由闊達かったつにやってもらいたい」という言葉とともに「まじめな雑談も大切です」と、よく口にしていた。

現在、筆者は拡大解釈して、職場でPC作業をしながらの同僚との会話、社内外のキーパーソンとの会食も「まじめな雑談」だと考える。やりとりが時に仕事の発想のヒントになると思うからだ。

「仕事仲間とつながりを感じたい」「仕事をスムーズに進めたい」は、いつの時代も変わらないが、特に会食は時間が長くなってしまう。

「昼食なら1時間、会合を伴う夕食は2~3時間かかります。現代は価値観が多様化していますから捉え方もさまざまで、同席する相手によっては苦痛に感じる方も多いと思います」(松本さん)

職場の自販機に行くのなら「終わりが読める」。“近・短”ですむ。だから、挨拶以上、食事未満のキーワードが効果的なのだろう。