「離婚した理由を説明に来い」

それから7カ月ほど経った頃、彼経由で母親が、「離婚した理由を説明してほしいから家に来てほしい。ただし、あくまでも息子の友人として」と言っていると伝えられる。

彼はひたすら申し訳なさそうな様子だ。

片桐さんは、「つまり、ただの友人に離婚理由を聞くってことよね?」などと心の中でツッコミを入れつつ、彼の手前、断るわけにはいかないため、菓子折り持参で伺うことにした。

当時、彼の母親は70代後半。会ってみると小柄で朗らかな印象だった。片桐さんは「財産狙いの女狐め! 成敗してくれる!」みたいな老婆を想像していたため、少しほっとした。しかし応接間で話し始めた母親は、息子自慢が止まらなかった。

「上の2人の子育ての時は、働きながらだったから姑に任せっきりになってしまったけど、この子の時は専業主婦だったから、イチから私が育てたの! だからこんなに立派になったのよ!」

片桐さんは顔では笑い、「姉と兄は? 姑に育てられたから立派にならなかったの?」と心の中でツッコミを入れていると、突然、耳を疑うような言葉を母親から剛速球で投げつけられた。

「恋愛のことは教えなかったからあなたみたいな人を選んじゃって……。この子、今年厄年なのよね〜。私、あなたが厄だと思ってるのよ? まだ結婚するには若すぎるんじゃない? 家に帰ってくれば私が全部お世話してあげるんだから焦らなくていいのに……」

このとき彼は39歳。結婚するのに早すぎる年齢ではない。小柄で朗らかな第一印象とは違い、初対面の相手に面と向かって「あなたが厄」と言い切った。

「母親に恋愛について教えてもらう息子なんて気持ち悪いですよね。まだ結婚してないんだし、今からでも教えれば? と思いました」

彼はというと、自分の婚約者が母親からひどいことを言われているのに、怒ることも慌てることもなく、「またそんなこと言ってるのかよ……」と呆れるばかり。その様子から片桐さんは、「彼のお母さんはこれが通常モードなの?」と驚いていた。

1時間ほどして、ようやく片桐さんが離婚した理由についての話題になった。

「相手があることなので誰にも話さないつもりでしたが、彼が『一度だけ説明してやってくれ』というので仕方なく話しました。お互いの価値観が合わなかっただけで、特にひどいことをされたわけではないので、元夫が悪者にならないように、極力、客観的に説明するようにしたのですが……」

離婚届とボールペン
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母親は、「前の旦那さん、そんなに悪い人には思えないんだけど。そんな人と離婚するなんてワガママなんじゃないの?」と片桐さんを非難。

すると彼が「いや、でも蘭子はつらい思いをしたわけだから……」と助け船を出してくれたため、片桐さんがそれに関するエピソードを説明すると、「そうやって相手ばかり悪く言うなんて、都合がいい人ね!」とさらに不快感をあらわに。

「そこで気付きました。そもそも、誰もが納得する離婚理由なんてないんですよね。浮気やDV、借金などの十分に離婚の理由になることが原因だとしても、『されるほうにも問題あるよね?』と言う人もいるのですから……。離婚理由を聞いてから結婚を認めるかどうか判断するというのは建前で、徹底的に反対するネタを集めるためだけのイベントに過ぎなかったのです」