完璧にスケジューリングしたつもりなのに、なぜいつも時間が足りなくなるのか。それは時間リスクの見積もりが甘いからです。

仕事の計画を立てるとき、万が一に備えて手は打ってあると胸を張る人は少なくありません。しかし、その多くは危機(ハザード)管理であって、リスク管理でないことに気づいていない。

ハザードとは、災害や事故といった事態のことであり、危機管理ではハザード発生時のリカバリーに主眼が置かれます。一方、リスクはハザードと違い、日常の中で予定どおりに進まない可能性があるものすべてを指します。たとえば「仕事中に突然、顧客が来訪する」というイベントは、けっして災害や事故ではありませんが、日常的で不確実という点では立派なリスクです。時間のリスク管理とは、こうしたイベントを事前に把握してマネジメントすることをいいます。

普通に仕事をしていれば、さまざまな時間リスクに出合います。「いざ外で仕事をしようと思ったら、必要な資料が揃っていなかった」(資料の欠落)、「上司の意図を誤解したまま仕事を進めて、やりなおしを命じられた」(要求への無知)といったイベントも起こりうるでしょう。

100時間の仕事に対して、こうした数々のリスクイベントが起こるとしたら、どれほどの時間ロスが発生する可能性があるのか。それをQRA(クオンティティブ・リスク・アセスメント=定量的リスク分析)という手法でシミュレーションしたものが、手順1から3のグラフです。

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手順1~3

QRAは、建築事業などの中長期プロジェクトにおいて工期や事業費などを事前予測する分析手法です。工事が予定どおりに実施されれば工期や事業費は最小限で済みますが、現実にはさまざまな不確定イベント(リスクイベント)があり、当初の計画どおりにはいきません。そこでリスクイベントごとに設定した確率と影響度に基づき、統計学上有意な回数のシミュレーションを実施します。仮に「30%の確率で予算が1.5倍に膨らむ」という予測結果が出れば、それを念頭に置いて予算を多めに取ったり、改善を重ねてコスト削減を図るわけです。

この手法は個人の仕事のスケジューリングにも適用可能です。ここでは手順1にあげた10のリスクイベントについて、それぞれ3つのシナリオの確率と影響度を設定。実際のQRAで用いるソフトを使い、2000回のシミュレーションを実行しました(手順2)。