生産拠点を移さないよう圧力をかけたか

一方、中国経済は依然として厳しい。このところ、財新のPMI総合指数(国家統計局のPMIより中小企業が多い)は50近辺で推移した。経済成長率は低下傾向にある。不動産市況の悪化によって本土株の下落懸念が高まる中、中国からインドへの企業シフトが勢いづけば、中国国内の雇用、所得機会は減少する。それは、民衆の不満を高め習政権に対する批判増加につながるだろう。

中国政府は、インドなどへの事業拠点の移転を食い止めたいはずだ。フォックスコンの関連会社に税務関連の調査を実施したのは、中国から生産拠点を海外に移さないよう圧力をかける意図ともみる向きもあるようだ。

中国の習近平国家主席(=2023年10月17日、中国・北京)
写真=EPA/時事通信フォト
中国の習近平国家主席(=2023年10月17日、中国・北京)

最近のインドなどへの企業の移転は、中国政府が想定したよりも多かった可能性もある。これまで資金流出を食い止めるための措置は、為替管理の厳格化などが主だった。足許、中国政府は脱中国、インドなどへのシフトを進める企業の増加に、焦り、危機感を強めているかもしれない。

中国での事業リスクはますます高まっている

2024年1月の台湾総統選にホンハイ創業者の郭台銘(グオ・タイミン=テリー・ゴウ)氏が出馬する。台湾への圧力強化に加え、習政権は鴻海グループに中国での事業継続を念押しするために税務調査に踏み切ったとの解釈もできそうだ。

今後、世界の有力企業にとって、中国における事業環境の厳しさは追加的に高まる可能性がある。デフレ圧力の高まりによって価格競争は激化し、粗利は圧迫されるだろう。台湾問題の緊迫感も高まる。IT先端分野などで米中対立も熱を帯びるだろう。

米国の政治動向も懸念材料だ。仮に2024年の大統領選挙でトランプ氏の再選が現実のものになると、米国が半導体だけでなくEV、車載用バッテリーなどの分野でも対中制裁を強化し、貿易戦争が起きる恐れもある。対中強硬姿勢は、一段と強硬なものになる可能性は高い。

7月に共産党政権が施行した“改正反スパイ法”も主要企業の事業運営にマイナスだ。最近でも、わが国企業の従業員が逮捕されたり、拘束されたりする事案が発生した。フォックスコンのような税務調査だけでなく、今後は労働管理の監督を名目に当局が企業に検査を実施し、場合によっては何らかの制裁を科す恐れも高い。