数回調停が行われてもこの調子で話が進まないため、調停委員は夫に、「調停を不成立にして裁判にしますか」と尋ねました。すると、夫は長時間電話をかけた上で、「裁判は一家の恥だからやめるようにとお母さんに言われた」と回答。そこで、過去の婚姻費用の清算をして、あっけなく離婚となりました。

こうしてA子さんは離婚できました。

親が離婚問題に介入するケースが増加

昔はドラマの影響などで「マザコン夫」が話題になりましたが、今はマザコンという言葉は死語になりつつあります。両親と仲のいい男性が増えて、結婚後も実家と行き来があることが珍しくなくなったためです。

一方、結婚して夫の実家で同居する夫婦が減ったため、嫁姑問題の相談も減りました。

しかしそれに代わって増えたのが、両親が離婚問題に介入してくるケースです。

まず、相談希望のメールや電話も、本人ではなく親からということが少なくありません。

相談の時にも親が同席しますし、「私の方が詳しいから」と、子どもよりも親の方が夫婦の事情を熱心に話します。10代、20代といった若い夫婦ではなく、30~40代の夫婦の離婚に、親が積極的に関わろうとするのです。

不仲になった経緯として出てくるのも、夫婦と義両親が入ったグループLINEです。子どもの写真などを送るために作られたグループが夫婦げんかの場になり、さらには夫そっちのけで妻と夫の両親がけんかをしていることもあります。

そして、A子さんの夫のように、離婚に関する意思決定を、何もかも親に委ねてしまう人もいます。

実家に帰るかどうかや、両親が頭金を出したマンションをどうするかといった部分を親に相談することはわかりますが、婚姻費用はいくら払うか、財産分与は、養育費は……といったことまで、事細かに親に聞かないと決断ができないのです。

親離れができていないまま結婚、離婚も「親任せ」

特に、A子さんの夫のように高学歴で高収入の人の場合に、親が介入してくるケースをよく見かけます。

多くは、反抗期を経ずに親の言うことを聞いて勉強をして、親の言う通りに、親戚にOBが多い大学に進学、親のつてで就職……という人生を送ってきた人です。成人してからも、何でも親に相談して生きてきたため、そのことに違和感を持たないのかもしれません。

A子さんの夫が、スペックのわりに甘え上手に見えたのは、親離れしていない、子どものままの男性だったからと言えます。

離婚を相談された親も、「大事に育ててきた息子の一大事」と乗り出してきます。親戚筋にも弁護士がいるため、親がすぐに依頼して、方針も親が決めます。

以前は「離婚は恥ずかしいことだから親に知られたくない」という人が多かったのですが、最近は男女問わず、結婚してからも親離れをしない人が増えて、今や「離婚も親任せ」という時代になったと言えるでしょう。