勝手に離婚まで話が発展

夫が帰宅する時間が近づき、電話かLINEで連絡があるはずだと思っていると、義両親とのLINEグループの方の通知が鳴りました。

夫がA子さんの荷物がなくなった部屋の写真をアップして「A子ちゃん出て行っちゃった……」「ひどくない?」と投稿していたのです。すると義母は、「これはひどい」「離婚しかないわね」「うちの親戚に弁護士がいるから依頼しましょう」とどんどん話を進めていきます。

A子さんは愕然としました。私も入っているグループで、親にこんなことを相談するなんて……。しかも、A子さんの気持ちも聞かずに離婚まで話が発展していたのです。

そして数日後に、A子さんの実家に内容証明郵便が届きました。夫の代理人になった弁護士からの、「離婚するので交渉を行いたい」という連絡文でした。確かに夫と同じ名字で、検索すると、夫や親戚一同と同じ大学を出ています。

こうしてA子さんも弁護士に相談しようと考えて、私の事務所にいらっしゃいました。

A子さんはこれまでの経緯を話して、「距離を置きたいだけだったのに、夫は離婚しようとしている。疲れたので離婚に応じたい」と言いました。

離婚の交渉がまったく進まない

依頼を受けて夫の弁護士と交渉を始めましたが、一向に話が進みません。夫が離婚を申し出たので、夫から離婚条件を提示するのが通常の流れですが、その提案が全くないのです。

かなり待ってようやく出てきたのは、「A子さんから夫に慰謝料300万円を払い、夫の実家に来て謝罪をする」という荒唐無稽な提案でした。こちらからは、離婚の交渉の前提として、双方の収入に応じた額の別居中の生活費(婚姻費用)を支払うように夫に請求しましたが、完全に無視されました。

話が進まない中、今度は夫が離婚調停を申し立てました。こちらからは、婚姻費用分担調停を申し立てて、離婚と婚姻費用の問題を並行して話し合うことになりました。

しかし、調停が始まっても、やはり話が進みません。

夫は毎回調停に出席するものの、調停委員に「なぜ離婚したいのですか」「婚姻費用を払えない事情があるのですか」「離婚するならどんな条件を出せますか」と聞かれても答えられません。すぐに調停室から出て、親に電話をしているそうです。

そして、「お母さんが離婚だと言っているので……」「僕は悪くないからお金を払う必要はないとお母さんが言っています」などと言うそうです。

夫の弁護士ももちろん同席していますが、あくまで「いるだけ」で、収入などの資料も提出せず、何でも「夫の両親に聞かないと」と言います。そもそも離婚が専門ではないらしく、婚姻費用などの知識もないようです。

夫は「お母さんの方がうまく話せると思うから調停に同席させたい」と言ったそうですが、調停に当事者以外の人が参加することはできません。調停委員がそう断ると、今度は義母が書いた長い陳述書を提出してきました。しかし、いかに息子を大事に育ててきたかがつらつらと書かれているだけで、離婚原因になるような内容は書いてありませんでした。

法廷のハンマーと結婚指輪
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです