セクハラ告発で360億円の損失が出るほど

ここで#Metoo運動によってキャンセルされた米企業の例を見てみよう。

「Guess(ゲス)」は80年代から90年代にかけて一世を風靡ふうびした超人気ファッションブランドだ。しかし、#Metoo運動の嵐が吹き荒れた2018年、共同創立者でデザイナーのポール・マルシアーノが、スーパーモデルのケイト・アプトンからツイッター上でセクハラの告発を受けた。情報は瞬く間に広がり、数時間後には株価が17.7%も下落、1日で2億5000万ドル(日本円で360億円)もの損失を被る事態となった。マルシアーノは解雇され、ブランド価値は大きく低下した。

同様に、ナイキ、人気ヨガウェアのルルレモン、高級ホテルグループのウィン・リゾーツ、大手書店チェーンのバーンズ&ノーブルなどで、トップレベルの重役が解任されている。

もうひとつ、たった一言で地位を失った出来事がつい最近起きた。音楽誌『ローリングストーン』と「ロックの殿堂」の創始者で音楽界の頂点に君臨していたヤン・ウェナーは、差別的なコメントをしたために衝撃的な早さで失脚した。

解任されるまでわずか20分だった

彼はニューヨークタイムズ紙のインタビューで、「自著『ザ・マスターズ』ではなぜ女性や黒人を取り上げていないのか」と聞かれ、「彼らは知的レベルが十分でなかったから」と答えた。

記事が出た直後から、彼の発言に対し「女性差別、人種差別」という激しい批判がネット上を駆けめぐり、翌日にロックの殿堂は緊急の取締役会を招集する。彼の取締役からの解任を決断するまで、わずか20分だった。

日本でよく聞かれる、「差別する意図はなかった。私の発言で不快な思いをした方々におわびします」ではもう逃げられないのだ。

では、そうしてキャンセルされた企業や個人は存在を完全に抹消され、名前すら忘れ去られてしまうのかといえばそうではない。

ここで、ジャニーズ問題に対する社会の対応と、ワインスタイン事件とを比べてみたい。

10月2日のジャニーズ事務所の記者会見では、解体・社名変更以外にも、「ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたい」(藤島ジュリー氏)として、「関ジャニ∞」や「ジャニーズWEST」「ジャニーズJr.」などのグループ名や屋号を変更することが決定したと伝えられた。