ヒラ社員のままでも昇給を続ける不思議な仕組み

なぜ、「男のほうが収入も役職も上」という常識が壊れないか。それは、日本企業がいまだに緩やかな年功制を敷いていることもその一因です。世界各国の雇用に詳しい人だと、「欧米とて、給与を見れば明らかに年功カーブが存在するので、日本と変わらない」というかもしれません。確かに平均給与を見ればそうでしょう。

ただ、欧米の場合は、「昇進していくエリート」が給与をどんどん上げ、それ以外の大多数は、それほど昇進も昇給もしていません。だから「年上」といっても、一概に偉い・高給だなどという常識ははびこらないのです。

一方日本は、加齢にしたがい、今でも半数程度の人が課長になり、それがかなわなかった人でも、昇給を続けます。賃金構造基本統計調査から役職別に各年代の年収を試算していくと、ヒラ社員でも従業員1000人以上の大手企業だと、大卒者なら50代前半で、年収が950万円にもなり、それは30代前半のヒラ社員より150万円も多くなっています。

木製ブロックで表現している右肩上がりの昇給のようす
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです

同様な比較をすると、従業員500~999人の準大手企業でも109万円、100~499人の中堅企業でも131万円も多くなります。

こうした状況を見ていれば、「年長者の多くは管理職となり」「なれなくても高給」といういわゆる年功主義が常識となっていくでしょう。さらに、その年代はかつての「男性偏重」採用期にあたり、在籍者は男ばかりになっている。そう、偉いor高給な人は男、という常識が増幅される構造です。

そろそろ、ここにメスを入れることが必要でしょう。

なぜ、同じヒラなのに50代は30代より高年収なのか?

少し考えてください。

30代前半のヒラ社員には、将来、役員や経営者に育っていく超優秀者の卵も含まれています。一方、50代前半のヒラ社員は、課長にもなれなかった人ばかりです。当然、ポテンシャルで言えば、前者のほうが高い。なのに、なぜ、年収は後者のほうが150万円も高いのでしょう

これ、理不尽ではありませんか。

【図表】共働き時代に賃金の年功カーブは必要ない
図表=筆者作成

「50代のヒラ社員は、経験豊富で蓄積された能力も高いから、ヒラとて、課長のサポートなど重要な職務に就いている。だから高い」

こんな説明をする人も見かけます。本当でしょうか?

もしそうなら、なんで、課長になれなかったのでしょう。

私が企業を見てきて言えるのは、30代前半の大卒10年選手は、相当鍛えられており、新人・若手の育成や課長のサポートなどもう既にできている人が多数です。50代前半の平社員のほうが優秀ということは断じてありません。

とすると、この年収差はなぜ生まれるのか?

これ、人事に詳しい人ならすぐわかるはずです。古株の人事部長に聞けば、異口同音にこう答えるでしょう。

「そりゃ、昇給させてあげなきゃ、家族を食わせられないだろう」

そう、能力や職務内容ではなく、家族扶養のために昇給をしている状態なのです。