マスコミ対応のうまさ

ひどいケースになると、「球団からはそう発表されたが、じつは膝の古傷が再発して開幕を無事迎えられない可能性が高い」などという、いわゆる「飛ばし記事」を書かれてしまうことが考えられる。取材できないということは、球団にとっても、あることないこと書かれてしまうので、デメリットのほうがはるかに多いと考えても不思議ではないというわけだ。

岡田監督は、そのことを予測していたのだろう。あえてキャンプを取材させ、ありのままの状況をしかと見てもらい、首脳陣や選手から発せられる「生の声」を聞かせることで、そうした飛ばし記事を防ぎたいという思惑があったように感じる。

野球のプレー風景を撮影するカメラ
写真=iStock.com/irishblue
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実際、取材をしてみて、阪神の現状が鮮明にわかった。投手陣の出来具合はどうなのか、主力打者はどれだけ調整が進んでいるのか、はたまた前年まで実績がなかった選手のなかで期待できるのは誰かなど、こと細かにわかったことは、取材するわれわれにとってもメリットのほうが大きかった。

2023年の開幕前の野球解説者によるシーズン予想では阪神を優勝に推す声が大きかった。それは阪神を推すことで関西の仕事にありつこうと思っていたわけではない(無論、そうした連中も一部にいることはいるのだが)。春季キャンプで阪神の選手をじっくり見ることができたからこそ客観的な予測ができたからである。その意味では岡田監督があえて「取材OK」を打ち出したことは大きかった。

矢野前監督との決定的違い

二つ目は「選手に対して勝つための野球を浸透させたこと」だ。前年までの阪神の野球はそれが感じられなかった。とくに矢野前監督時代の野球は、二軍であれば通用する野球、もっといえば、まるで少年野球かと思わせるような振る舞いも見せつけられた。

一例を挙げると、「1イニングの攻撃が3球で終わってもいいから積極的に振りなさい」ということである。「ファーストストライクを打て」という意味から来ているのだろうが、私にしてみれば、愚の骨頂である。

たとえストライクでも、苦手なゾーンに投げ込まれたら凡打してしまうし、「ストライクだ」と思って振ったとしても、ボールゾーンに落ちる変化球を投げられて凡打に終わることだって十分にありうる。それに、初球のファーストストライクを打ったとして、3人が3人とも凡打に終わってしまったら相手投手を楽にさせてしまう。

たとえ「今日は球が走っていないな」と思って投げていたとしても、早打ちをしてくれることで、相手投手が精神的にゆとりができてしまうことはデメリットでしかない。それより、「次はこの球を投げてくるに違いない」と相手バッテリーの配球を読みながら球数を多く投げさせるほうが間違いなく相手はいやに感じてくる。