「隊員には余ったらワクチン接種」

「自衛隊大規模接種会場」は接種回数こそ少ないが、支援要員は多く必要とした。感染拡大を予防するには予想以上に人の手を必要とするものだ。さらに現場には、人員が感染してしまうという人手不足を深刻化させる魔物もおり、自衛隊はこの面で大きな問題を抱えていた。

「私はワクチン未接種のまま大規模接種センターに派遣されます。ワクチンは会場で余ったものを接種する予定です」

2021年5月24日に支援要員となる陸上自衛官からの声が、筆者へと寄せられた。

本来であれば、派遣される前にワクチン接種を2回とも完了しておくべきである。ワクチンの効果は1回目、2回目で2倍になるのではない。1回目は、身体の免疫系に新型コロナウイルスを攻撃すべき「異物」として認識させる程度で、特に発症抑制効果がある抗体が作られた2週間後に2回目の接種を行って初めて、効果が数十倍から100倍まで高まることで予防効果を発揮するようになる。

若い女性へのコロナウイルスワクチン注射
写真=iStock.com/show999
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インド型変異株に対してはファイザー製、アストラゼネカ製のワクチン1回目接種の効果は33%であるが、2回目では、それぞれ88%と60%である。60%は季節性インフルエンザワクチンの効果の高いほうと同程度だ。

当然ながら報道されるとおり、副反応は2回目のほうが強く出る。これは未知のウイルスに対して、免疫系統が正しく機能している証左そのものである。

インパール作戦並みの無謀

ファイザー製ワクチンであれば、37.5度以上の発熱が起きる割合は、1回目は3.3%であるのに対し、2回目が38.4%との報告がなされている。発熱した隊員は大規模接種センターの戦力外となる。派遣中に3人に1人以上の確率で発熱するワクチンを、余剰分で接種する無計画さは、防衛組織の部隊運用とはとても言えたものではない。

2021年5月23日、モデルナ製ワクチンが大規模接種センターに勤務する自衛隊員と民間看護師200名に接種されたが、これは4週間後の2回目接種時に約60名が発熱し、人手不足になるということだ。当然、予測して備えておくべき事態のはずだが、戦力管理はできていなかったと言わざるを得ない。

センターに派遣される前に1回目さえ接種できていない自衛隊員は、大規模接種センターの勤務期間中に1回も接種できないおそれがあり、実際、未接種のまま感染の脅威を身近に感じながら市民を迎え、ワクチン接種を促していたことになる。

現場で余ったワクチンを当てにするなど、牛に補給品を運ばせて、現地で食料にしようとして大失敗をしたインパール作戦並みに無謀である。