誰にも感謝されなくても人が集まる場所を維持する重要性

栗山監督も学ばれた卦「水風井すいふうせい」では、井戸をたとえに、人の集まる場づくりの大切さが説かれています。

水風井
陰日向なく仕事を続ける時。
人の集まる場づくりとは誠意ある環境づくりである、の意。

井戸は古来、人が生きるために不可欠な水を供給する場として生活の中心にありました。たとえ戦争で国や村が変わることがあっても、井戸は場所を変えることなく、汲めども尽きず、訪れる人を誰でも養ってきました。

日差しの中で古い井戸
写真=iStock.com/augustmama
※写真はイメージです

しかしながら、その井戸を維持するためには、掃除や石組み・釣瓶つるべなどの修理、そして何より水質の維持など、地道で膨大なメンテナンス作業が必要です。それらが一つでも欠ければ、水は飲める状態ではなくなるどころか、汲み上げることすらできなくなってしまう。そういった、大変な労務を果たして誰がやるのか?

「あなたがそれをしなさい」とこの卦は教えます。たとえ誰にも感謝されなくとも、もれなく行き届いた作業を続けること。そうした努力を続ければ、それを評価してくれる人がやがて登場し、それまでの苦労も報われ、あなたが多くの人を幸福にしたのと同じく、あなたも幸福になれるだろう、ということです。

今は日の目を見なくとも、分かってくれる人はかならずいる。認められなくても諦めることなく、その才能にさらに磨きをかけていきなさい、とこの卦は説きます。

「井戸に蓋をして水を独占するようなことをしてはならない」

そもそも井戸というものは、世間の人にその水を飲まれ、喜ばれてこそ価値があるものです。人のためにと地道に頑張ったことで得られる世間の信用が、やがてあなたにも大きな恵みとなって返ってくるでしょう。

「井戸に蓋をして独占するようなことをしてはならない。奉仕の心があれば大いに吉」。この卦のそんな言葉どおり栗山監督は、日本ハム時代、投打に大活躍しチームに不可欠な存在に成長した大谷選手を、気持ち良くメジャーリーグに送り出しました。

卒業セレモニーでの栗山監督から大谷選手への贈り物には、「世界一の選手になると信じています」というサインがありました。そして、その願いは見事に実現したのです。