世界的に注目を集めた「アベノミクス」

パンデミック以前、日本各地の観光地はインバウンド(訪日外国人)であふれていました。日本の観光地や文化そのものが魅力的だというのに加え、こうした体験を格安ででき、何を買っても、何を食べても安いという点が高く評価されていたのです。

こうした事実をもって「もはや先進国ではない」と言い放つ声さえ聞かれます。日本が世界第3位の経済大国であるのは確かですが、国民の暮らしぶりを基準にすれば、かつてのように豊かとは言えないのが現実かもしれません。

2008年のリーマン・ショックによる影響もまだ癒えない2011年、日本は東日本大震災に見舞われました。長引くデフレから抜け出せない危機的な状況の中、2012年に政権奪取を果たした自民党の安倍晋三首相は「危機突破内閣」を自称しました。安倍政権が世界的に注目を集めたのが「アベノミクス」と呼ばれる経済政策です。

第一の矢「大胆な金融政策」で株価上昇に成功

本書の第1章でもふれたように、アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間の投資を引き出す成長戦略」の三本の矢からなります。この「三本の矢」という言葉は、戦国武将、毛利元就が3人の子どもたちに結束を説くために残した教えです。

一本では容易に折れてしまう矢でも、三本束ねれば頑丈になるという意味です。山口県選出の安倍氏が、中国地方の覇者・毛利元就にあやかって選んだ言葉でしょう。

一本目の矢「大胆な金融政策」を行なうため、まずは日本銀行の総裁を黒田東彦に代えました。それ以前の白川方明まさあき総裁は日銀出身だったため、大胆な金融政策ができないとみなし、財務省出身で、アジア開発銀行総裁の経験もある黒田東彦を総裁に据えたのです。

黒田日銀総裁はお札をどんどん刷って金融機関が保有する国債を大量に買い上げ、現金を大量に市場に供給するという「金融緩和」を行ないました。こうして市場に流れ込んだお金が、株式投資に向かい、株価が上がっていく。そう期待され、実際に株高を生み出すことに成功しました。

また、現金がふんだんにある状態では、お金を貸したい人が多く、借りたい人が少なくなるため金利が下がります。金利を下げてでも貸したい人が増えるからです。